ウイングトラベル特集
【潮流】意義ある観光財源の見直しを

9月に入り、2025年度の上半期もラストスパートに入るタイミングとなった。そうした中で観光庁は令和8年度(2026年度)予算の概算要求で約813億円を要求した。これは25年度予算比で38.6%増の水準となる。
このうち国際観光旅客税の充当分として同税創設後過去最高となる700億円を要求した。一般財源については19.7%増の約107億円を要求。観光産業の人材不足対応やユニバーサルツーリズムの促進などで予算の大幅な増額を求めた。
概算要求とあわせて令和8年度税制改正要望として「観光施策を充実・強化するために必要となる財源確保策の検討」を求めることとした。これは政府のいわゆる「骨太の方針」において盛り込まれた内容を踏まえて求めたものだ。
観光庁の村田茂樹長官は「観光立国推進基本計画で定められた施策を実行するために必要な予算をしっかりと確保していくことが何よりも重要である」と強調。基本計画に盛り込まれている政策を実現するために「あらゆる機会を通して必要な予算を求めていく」と述べた。
観光立国推進基本計画は今年度で第4次計画の最終年度を迎え、2030年度までの第5次計画の策定に向けた議論もすでに始まっている。新たな計画に盛り込む目標値の設定や具体的な政策の話題に加え、今後は「財源」というテーマでも議論が加速することとなりそうだ。
財源というテーマでまず俎上に挙げられるのは、やはり国際観光旅客税ということになるのだろう。
国際観光旅客税については現在、出国するすべての日本人、外国人から一律1000円を徴収しており、この税額や徴収対象を見直すのかどうかが議論の焦点のひとつとなる。
しかし、税額の見直しだけで議論を終えるべきではない。徴収した税の使途についても改めて検証する局面に来ているのではないだろうか。
国際観光旅客税の使途については「ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備」「わが国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化」「地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験滞在の満足度向上」の3点に充当することとなっており、これまで多様な施策に投入されてきた。
2019年1月の徴収開始から6年9カ月が経過した今、果たして日本の観光を取り巻く環境がどのように進化したのか、総括の必要性が増している。
国際観光旅客税の今後については税額を見直すという議論だけにとどまらず、観光を強化していくために何が必要なのかということを徹底的に議論を交わしてもらいたいものだ。
観光財源をめぐる動きとして国際観光旅客税とともに、注目されているのが、外国人旅行者を対象とした消費税免税制度の見直しに関する動きだ。
この話題に関しては先日、観光・小売関連団体10団体が「外国人旅行者向け消費税免税制度に関する提言」を発表。免税制度の廃止は国際競争力を著しく毀損することとなると指摘した。さらにジャパンショッピングツーリズム協会や小売り7団体が行った調査では、免税制度の廃止により年間の訪日外客数が695万人減少し、2兆1804億円の消費がなくなるという試算を発表した。
一方、免税制度廃止を求める声は「増加する外国人からの税収確保」や「外国人受け入れ規制」の観点から高まっている。ただし、観光・小売団体は、過去に制度を廃止した国々でGDPへの悪影響が確認されていること、さらに排外主義的議論が観光立国戦略を損なう危険性を強調している。免税制度の存廃を巡る議論では、これまで制度がもたらした効果を丁寧に検証し、懸念論とは切り離した冷静な議論が不可欠だ。
新たな観光立国推進基本計画の策定に向けた検討については、引き続き交通政策審議会観光分科会において進められていくことになり、来年の3月までには日本におけるこれからの観光が進化していくための道標が示されることになるのだろう。
一方で観光財源に関しては、別途、これまでの総括と将来のあり方を徹底的に検討する場が必要になるのではないだろうか。
いずれにせよ、旅行者と観光産業に携わるすべての人々が恩恵を受けられる仕組みづくりが求められている。(嶺井)