ウイングトラベル特集
【潮流】アウトバウンド促進へ確固たる道を
                       2026年度からスタートする第5次観光立国推進基本計画の策定に向けて、国土交通省の交通政策審議会観光分科会で議論が進められている。10月27日に開催された第53回会合では、次期基本計画策定にあたっての方向性案が観光庁から示された。
 新たな基本計画を推進する上での基本的な考え方としては観光客の受け入れと地域住民生活の両立のための施策に重点を置くとともに、観光が地域住民に裨益していく姿、観光地の持続的な発展につながっていく姿を示していくべきであると位置づけた。
 この考え方を踏まえて、次期基本計画で目指すべき方向性として「地域住民と観光客双方の満足度向上」「交流人口・関係人口の拡大、相互理解の促進」「『働いてよし』の観光産業の実現」の3点を掲げた。
 このうち、交流人口・関係人口の拡大、相互理解の促進という視点における、施策の柱として「国内交流・アウトバウンドの拡大」を掲げるという案が示され、審議会の委員から大筋で了承を得られたところだ。
 政府が主導して、アウトバウンドの促進が掲げられたのは1987年の「海外旅行倍増計画(テンミリオン計画)」があったが、2007年から施行された観光立国推進基本法に基づいて、観光立国推進基本計画の策定がスタートしてから施策の柱として明確に示されたのは今回が初めてとなる。
 観光分科会の審議と時を同じくして、10月29日には、若者の海外体験を後押しする新たなプロジェクト「Go Global Project」が立ち上がり、キックオフイベントが行われた。このプロジェクトは渋谷エリアで産官学民連携でさまざまな活動を展開する渋谷未来デザインが構想を掲げた。これに海外旅行需要喚起施策「もっと!海外へ」プロジェクトを推進してきた日本旅行業協会(JATA)が連携。さらにKDDIや関西エアポートなど趣旨に共感した18の企業・団体が加わり、海外旅行の需要喚起にとどまらず若者の海外体験に対する意識変容を目指していくとしている。
 Go Global Project発足の土台にあるのが、若者の海外志向に対する意識低下への危機感だ。渋谷未来デザインの長田新子理事・事務局長は「若者に国際感覚を持ってもらうためにはどのようにするべきであるのかという点について約1年にわたって議論を積み重ねてきた」と話す。若者文化の最先端である渋谷で活動をする関係者からこのような声が上がるということは、全国レベルで見ると、一層深刻であると考えずにはいられない。
 訪日インバウンドの急増に呼応して一部の地域で「オーバーツーリズム」の問題が現実的なものになり、その風潮を広げないように対策を講じるのであれば、同じようなパワーを使って若者の海外志向の意識低下に対する対策を講じる必要があるのではないだろうか。
 せっかく新たな観光立国推進基本計画の柱にアウトバウンド推進が掲げられることが現実的になってきたのだから、さまざまな観点から2030年に目指すべき姿を示すべきであると考える。
 前述した観光分科会では次期基本計画の柱を示すとともに、目標値に関する方向性についても観光庁から示された。アウトバウンドに関しては航空路線の維持・拡大を通じたインバウンドの増加や地方誘客の推進に資する観点から「日本人の海外旅行者数」に関する数値目標を設定することを提案した。ただ、イン・アウト双方の視点で現状からの高みを目指すというのであれば、複数の視点で目標値を設定するべきなのではないだろうか。
 アウトバウンド促進に対しては、為替水準や治安、社会的価値観など複合的な課題が横たわる。ただ、若者の意識変容という視点では官民の方向性が一致しているはずだ。海外旅行者数とともに、若年層に焦点を当てた目標値も設定することが「少なくとも」必要なのではないか。
現段階で「海外教育旅行プログラム付加価値向上事業」を推進しているのであれば、海外教育旅行の実施校数についても具体的な目標を掲げるべきであると考える。観光立国推進基本計画の策定にあたっては今後、細部に関する議論が進められていくことになる。議論の経緯の中で、アウトバウンド促進の理念がより厚みのある政策として結実することを期待したい。(嶺井)
        
    