記事検索はこちらで→
2025.08.05

ウイングトラベル特集

【潮流】旅行の新商流と「人のチカラ」

 トラベル関連産業に限ったことではないが、ビジネスシーンにおいてAI(人工知能)の存在感が日増しに高まっている。
 楽天グループが7月30日から8月1日にかけて開催したビジネスイベントではAIを前面に打ち出した内容でさまざまなサービスのデモンストレーションが行われた。その中で興味深かったのが、宿泊施設の業務支援を行うAIツールだった。
 主なサービス内容として、口コミの返信について語気が強くなりすぎないように配慮した文章を自動生成するサービスを始めとして、季節や客室稼働状況を分析して販売プランを生成する機能などが盛り込まれていた。
 特に販売プランの生成に対しては、従来とは違う切り口でプラン造成を行うことができる点をセールスポイントの1つとして掲げていた。
 膨大なデータの中から最適なものを抽出するという作業はAIがだからこそできるものだ。
 ある新興旅行会社の経営者は「AIが膨大なプランを抽出してくれるからこそ、新規参入することができた領域も少なからずあると思う」と話していた。
 AIの存在が、旅行・観光ビジネスに今後さらなる進化をもたらすことは間違いないのだろう。
 ただ、AIが最適であろうと考えて提案した内容が正解となるのか、不正解となるのか―。この判断を示すのは、やはり「人」ということになる。
 楽天の主力サービスであるインターネットショッピングモール「楽天市場」は、ネットの世界観の中にいかに人の空気感を出すことができるかという点を強く意識してきた。
 その楽天も「エージェント型」という切り口でAIの本格活用に乗り出そうとしている。彼らが今後、人とAIの狭間にどのようなエッセンスを加えようとしているのか、今後の行方が注目されるところだ。
 旅行とネットの関わりという部分でAI活用とあわせて今後の行方が注目される存在となるのが「ライブコマース」だ。
 日本から一歩離れ、韓国や中国、東南アジアに目を向けて見ると、ライブコマースの存在が日増しに高まっており、旅行商品の取扱量も増加傾向にあるのだという。
 先日韓国観光公社が企画し、日本への参入に意欲を示す観光スタートアップ企業を紹介するイベント「2025KTSC TOKYO Demoday」でも、交通関連事業者やワーケーションなどを推進する事業者とともに、ライブコマース事業を手掛ける企業によるプレゼンテーションが行われていた。
 登壇したライブコマース関係の企業は、AIを活用して購買意欲を高める多様なサービスメニューを用意し、付加価値の向上に向けてAIを積極的に駆使していると紹介した。
もっとも、ライブコマースの成否を左右するのは、最終的に「インフルエンサー」によるプレゼンテーションの力であると強調。やはり決め手は人の存在であるという。
 SNSの「映え画像」をきっかけに旅行の行先を決めるという新たな消費行動が広がる中、ライブコマースを活用した旅行販売という新たな流通形態が日本でも普及する可能性はあるのかもしれない。
 一方で、安全面を不安視して海外旅行に興味を持たないという若年層に対して、短い時間で購入を決断させるというのは大きなハードルであるのではないだろうか。
 そうした中でAIとインフルエンサーという2つの要素を嚙み合わせて、短い時間でのプレゼンテーションで旅行商品を訴求するライブコマースが果たして日本で受け入れられるかどうかは今後の動向を見極める必要がある。
 既存の通信販売との差別化も注視すべきポイントだ。旅行の通信販売といえば中高年層の利用が中心というイメージが根強いが、SNSというプラットフォームを活用するライブコマースは、異なる空気感を演出できる可能性を秘める。若年層の支持を獲得できるかどうかは、その戦略次第である。
 AIの普及や旅行販売における新たな商流の登場に伴い、「人のチカラ」の重要性はむしろ高まっているように感じる。その力をいかに引き出し発揮するかが、今後の競争を勝ち抜くカギとなるだろう。(嶺井)