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ドクヘリシステムの危機、業界団体が安全確保へ調査報告

国交省不利益処分多発に「ドクヘリの歴史で異例」
救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)は、近年、ドクターヘリ運航会社による不適正事案が散見されたことを受け、「ドクターヘリの安全運用に関する調査報告書」を作成した。同報告書では、ドクターヘリ運航事業者が近年、国土交通省から業務改善勧告、事業改善命令、安全管理統括者の職務に関する警告など、不利益処分が下されるケースが相次いだことを受け、その要因を分析。委託契約のあり方、医療スタッフに対する教育、組織的な問題など指摘し、再発防止策を提言したかたちだ。
迅速に現場に駆け付け、救命率、患者の予後を大幅に改善することができるツールとしてドクターヘリの有用性が広く知られるようになり、その運航が全国各地へと拡大。現在、47都道府県に57機の機体が運用中で、今では不可欠な医療ツールとなっている。運航が成熟した一方で、2023年~24年にかけて国土交通省が複数のドクターヘリ運航事業者に対して不利益処分を課したこともまた事実だ。事例としては、訓練記録の捏造と虚偽申告のほか、損傷した部品を2年間使用し続けて記録を捏造したもの、さらには30件に及ぶ整備及び運航における違反行為を組織的に行ったものなどがあった。
HEM-Netはこうした事態について「これまでのドクターヘリの歴史の中では異例のこと」との見解を示しつつ、「ドクターヘリの安全管理体制に問題が生じれば、搬送される傷病者及び医療クルーの身体・生命に危険が及ぶ」とコメント。「各運航会社には、航空法によって安全管理体制の構築が義務付けられており、このような違反行為が常態化し、あるいは他の運航会社に拡散すれば、本邦ドクターヘリの航空事故に対するリスクは高くなり、万一重大な航空事故に至れば、本邦ドクターヘリシステム全体に対する社会的信用が失われ、事業の継続が困難になる可能性もある」として、ドクターヘリシステムの危機でもあると警鐘を鳴らした。