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2025.06.03

WING

揺らぐ拡大抑止、抽象的な米の核の傘を真なるものへ

 非核三原則「持ち込ませず」を「撃ち込ませず」に

  世界各地で安全保障環境が、大きく揺らいでいる。ウクライナへ侵攻したロシア、弾道ミサイル、核開発を急ピッチで進める北朝鮮、そして軍備を大幅に増強し、南シナ海、そして台湾海峡を窺う中国が存在するなど、日本を取り巻く環境はかつてないほどに厳しい。戦後、米ロの核戦力のバランスが見られていたなか、最近では中国が核戦力を大幅に増強。現在、600発とされる核弾頭は、10年後の2035年には1500発へと2倍以上に膨れ上がるとの予測もある。その中国、ロシア、そして北朝鮮。3大核拡大国の真正面に位置するのが、日本なのだ。
 日本は「日米同盟、米国の傘の下にあるから大丈夫」という意見もあろうが、果たしてそうだろうか。ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアのプーチン大統領がチラつかせた核使用に、時のバイデン米大統領はウクライナに武器を供与するも、ロシア領内への供与武器の使用を禁じた。いわば米国は形式上、ロシアの脅しに屈したかたちとも取れるのだ。これには日本と同じく米国の核の傘の下にある諸外国に、動揺が走ったことだろう。「万一の事態に、米国は本当に守ってくれるのか」などと、疑念が走った。
 これまで核戦力に関する議論をタブー視してきた日本。日本は北大西洋条約機構(NATO)加盟国同様、世界最大の核戦力を有する米国の核の傘にはあるが、日米間では実は議論が停滞している関係で、その傘は極めて「抽象的」なもの、いわば手続きしか議論されていない状態に留まっている。仮に台湾有事が発生したとすれば、どうするのか。実戦的なシナリオベースでの核の議論までは、日米政府間でも協議されていない。
 そうしたなか笹川平和記念財団が、「日米同盟における拡大抑止の実効性向上を目指して―『核の傘』を本物に―」という政策提言をまとめた。このなかで、非核三原則「持たず、作らず、持ち込ませず」のうち、「持ち込ませず」を「撃ち込ませず」に変更すべきことを提言。日米同盟の拡大抑止の実効性を上げるために(1)日米同盟の強化、(2)自衛隊の態勢強化、(3)日本国内の備えと見直し、(4)国際的なリスク低減に向けた取り組みについて、拡大抑止の運用面からの実効性向上に焦点を当てて、15項目に亘る提言をまとめた。

※この記事の概要
・武居元海幕長、核想定した日米拡大抑止協議を
 運用者含めた抑止協議重要性を強調
・山崎元統幕長、本格的有事に備え作戦運用計画基本方針を
 統合作戦司令部の早期戦力化図るべき
・ 尾上元補本長、自衛官の核専門知識向上が急務
 米軍核部隊に自衛官派遣、核運用に必要なOJT
 F-35で核運用できる隊員養成など
 自衛隊はノウハウ有する必要性ある   など