記事検索はこちらで→
2024.03.28

WING

川崎重工、25年度山小屋物資輸送向け「K-RACER」の地上確認試験

 “飛行機屋“が作った無人VTOLが新たなインフラへ前進

 

川崎重工業が開発を進めているVTOL無人機「K-RACER」。その系譜の一つとして現在開発を進めているヘリコプター型「K-RACER-X2」(以下、X2)は、新たな社会インフラとして実装するべく、各地で実証に臨んでいる。昨年11月には長野県伊那市のスキー場で飛行実証し、その後12月22日には福島ロボットテストフィールドにおいて実に200kgもの貨物搭載能力を実証することに成功した。
 その「K-RACER」の開発に従事する川崎重工業航空宇宙システムカンパニーヘリコプタ&MROディビジョンヘリコプタ総括部ヘリコプタ計画部の櫻田武士部長と林田篤副部長が本紙のインタビューに応じた。
 川崎重工業は、伊那市との間では2021年度(令和3年度)から「無人 VTOL 機による物資輸送プラットフォーム構築プロジェクト」を展開しており、「K-RACER」を用いて山小屋への物資輸送スキームを構築することを目標としている。
 これにより人手不足やヘリコプターによる輸送費高騰に悩む高地の山小屋の新たな輸送インフラを構築する計画だ。
 そうしたなか林田副部長は、「伊那市における実証は再来年度(2025年度)で完了する」ことに触れつつ、「最終年度の2025年度夏から秋にかけて、ヘリコプターが物資輸送しているように、麓から山小屋への物資輸送をX2で行うことを計画している」と説明。「2024年度は、そこに向けて様々な確認試験を行うフェーズ」にあることを明らかにした。
 「X2」について林田副部長は「昨年8月に初飛行し、11月に伊那スキーリゾートで実証を行った。標高850mの高地でホバリングおよび前進飛行することが可能であることを確認した」ことを明かした。
 いよいよ具体的なユースケースを想定した飛行実証フェーズに入った「X2」について櫻田部長は、「パイロットに言わせれば、初飛行の時から素直な挙動を示す機体という評価」だったことを明かし、 「ソフトウェアで機体を制御する自動飛行の段階になっても、さほど苦労ない機体」とコメントした。
 有人ヘリコプターの設計・製造を長年に亘って手掛けてきた川崎重工業の“飛行機屋”たちが生み出した無人VTOL機「X2」の仕上がり具合は、まさに上々のようだ。
 前モデルの「X1」のローター直径は5メートルだったが、貨物搭載能力を向上するため、「X2」はローター直径を7メートルに拡大した。これにより標高0m地点での貨物搭載能力は最大で200 kg、標高3100mの高地でも100kgを空輸することができるようにした。
 推進系にはレシプロ・エンジンを、燃料としてハイオクガソリンを利用する。その航続距離は100km 以上、連続運用可能時間が1 時間以上という性能を誇る。
 伊那スキーリゾートにおける実証に先立って開発チームは、高地におけるエンジン運転試験も実施した。「今後標高3000メートル地点で運航するため、乗鞍岳に機体を持ち込み、飛行はさせずにエンジンを地上で運転させて、そのデータを取得した」とのことで、2023年度は山岳地における運航を想定した各種試験を進めてきたとした。
 また、同じく山岳地での運用を想定し、福島ロボットテストフィールドにおいて昨年12月22日、「X2」は200kgの貨物搭載能力を実証することに成功した。これにより日本国内で開発された無人機として最大の貨物搭載能力を誇ることになった。「X1」では機体腹部に物資を抱え込むようにしていたが、「X2」ではスリングを活用することができる設計としたため、福島における試験ではスリングによる重量物の吊り下げ試験を実施した。
 スリングの搭載に際しては、「設計を工夫することで、吊り下げた荷物が揺れたとしても機体への影響が最小限になるように、重心から近いところに吊り下げの支点が来るように工夫した」(林田副部長)と話すなど、有人ヘリコプターで活用している技術を「X2」にも応用したことを明かした。
 また、櫻田部長は「ソフトウェアで揺動制御することを考えている」としたほか、「角度センサーも導入しており、荷物の揺れの角度が大きくなると、機体側が超過を読み取って機体を制御する」ことを明かした。有人ヘリコプターの場合、パイロットはこれを感覚的に行うが、無人機の場合には感覚的に行うことができないため、センサーを使って機体が自動で検知・制御することができるシステムを目指しているという。
 飛行試験では「X2」は良好な性能を発揮したとのことで、さらには機体を大型化したことによる影響を検証するべく各種ハンドリング関係も確認。山岳部における新たなインフラとなるべく、また一歩前進することに成功したかたちだ。
 そうしたなか林田副部長は「初飛行以降、開発は着実に進んでいる」とコメント。ただ、一方で福島ロボットテストフィールドにおける試験では、穏やかな状況での試験だったことを振り返りつつ、「山岳地帯は、強風も吹く。今後さらに風があるところで、荷物の吊り下げ試験など、飛行実証していく必要がある」と、今後、機体成熟度を高めていくための課題を挙げた。
 ちなみに、「X2」の運航における風速制限については「風速35ノット。有人ヘリコプターと同レベルの風速制限を設定している」(林田副部長)とのことで、「これはドローンに対するアドバンテージの一つだ」(櫻田部長)との見解を示した。

 

 TC取得はやや後ろ倒しに
局と調整や事業性考慮で
 

 

 社会実装に向けて試験を進める「K-RACER」だが、その型式証明取得時期については当初2025年度ごろを計画していたものの、やや後ろ倒しとなりそうだ。

 

※写真=2025年度には麓から山小屋への物資輸送をX2で実施する計画だ

お試し価格で全文公開中