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2023.10.03

【潮流】旅行産業の多様化

 日本政府観光局(JNTO)によると、8月の出国日本人数は前年同月比56.9%の120万1200人だった。コロナ禍後、初めて100万人台の大台を超えた。ただ、2019年の8月は210万人と200万人を超えており、前月と同様に回復率は5割台に低迷している。
 新型コロナウイルス感染症の規定が5月から5類に移行して以降、、訪日外国人旅行者数は2019年同月比で5月68.5%、6月71.5%、7月77.6%、8月85.6と8割台まで回復してきている。一方で、日本人海外旅行者数は5月47.0%、6月46.2%、7月53.7%、8月56.9%となかなか回復が進まない。
 観光庁による主要旅行業者の取扱状況によると、7月の海外旅行取扱額は857億2100万円で、2019年同月比51.9%だった。7月の海外旅行者数と比べると5.0ポイント落ちているが、5割の回復を示している。
 しかし、7月の募集型企画旅行(パッケージツアー)の取扱状況をみると、7月は取扱額が63億300万円、取扱人数が1万9619人にとどまっている。これは、2019年同月比で取扱額が17.9%、取扱人数では14.5%と1割台と全く伸びていない。
 新型コロナウイルス感染症の規定が5類に移行してからの推移を見てみると、主要旅行業者の海外旅行取扱額の2019年比は5月42.7%、6月46.3%、7月51.9%と日本人海外旅行者数に近い形で推移している。
 募集型企画旅行の取扱状況は、取扱額が5月12.8%、6月16.9%、7月17.9%、取扱人数が5月10.4%、6月12.3%、14.5%と共に1割台に低迷している。
 訪日インバウンドと比べてアウトバウンドの回復率は低いものの、それでも6割近くまで回復してきた。しかし、パッケージツアーは1割台の低迷を依然として続けている。
 海外旅行も国内旅行と同様に個人旅行化が進行し、2000万人を超えた2019年もその傾向は拡大していた。それでも2019年7月の主要旅行業者の海外旅行取扱額1651億円のうち募集型企画旅行が351億円と21%占めていた。それが2023年7月には海外旅行取扱額857億円のうち63億円と7%にシェアが落ちている。
 現状としてここまで低迷すると、募集型企画旅行の事業規模がコロナ前に回復するのは時間が掛かる。というよりも元に戻るのは非常に難しいと思える。とくに、大手旅行会社が主力としていたパッケージブランドの先行きが見通せなくなっている。
 海外旅行専門の旅行会社は、新型コロナウイルスの5類以降を契機に、パッケージツアーの企画・造成が本格的に復活している。旅行説明会を見ても活況が戻り始めた。こうした中小の専門会社や大手でも高級パッケージツアー専門の子会社は存在感を示すと思われる。
 一方で、大手旅行会社のパッケージツアーの復活は厳しく、ダイナミックパッケージに変わろうとしている。パッケージツアーでスケールメリットを得ることは難しい。そうなると、内部的には企業の生産規模が縮小し、外部的には従来の旅行産業全体が衰退することが懸念される。
 ここで言う旅行産業は、パッケージツアーを中心に成長してきた大手旅行会社を中心とする海外旅行産業を指すのだが、既に大手旅行会社はその先を見据えて、多様な事業展開に移行している。その最たるものがBPO事業であり、これはコロナ禍の一過性のものではなく、各社とも名称や内容は多少違えど主力事業への成長が期待される。
 BPO事業は過大請求などの問題も起きたが、再発防止策を徹底化することで、地方創生というよりも、今や国内最大課題の「地方再生」への旅行業界への役割と期待は大きい。
 既に、BPO事業では旅行会社が共同企業体を組んで参加しているが、大手旅行会社だけではなく、専門の強みのある中小旅行会社も参加して、BPO事業はもとより多様な新規事業、周辺事業に取り組むことも「協調と共創」への道かもしれない。(石原)