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2021.05.03

【潮流】東京とニューヨークの違い

 2021年度が4月からスタートして既に1カ月が過ぎ、ゴールデンウィーク(GW)が佳境を迎えている。2019年までのGWなら旅行業界は活況を呈していたはずだが、今年もコロナ禍で昨年同様に緊急事態宣言の真っ只中となり、最悪の状況を迎えた。
 本紙の調査によると、コロナ禍による旅行業者の事業廃止は年度末を挟んでさらに増加し、4月に官報公示された旅行業者の廃業は73社とこの1年で3番目に多かった。これにより、昨年4月から13カ月の旅行業者の廃業は712社に達した。
 また、帝国データバンクが調査した1-3月の企業の休廃業・解散件数でも、旅行業が前年同月比78.6%増の25件となり、同社の事業再分類別の業種の中で、旅館・ホテル業を上回る最も高い伸び率となった。
 新型コロナウイルスの感染が拡大し、国内旅行が激減、海外・訪日旅行が消失する中で、旅行業界は何とか耐え忍んできたが、4月の新年度を前に事業継続を断念した会社も多い。その上、この4月には3回目の緊急事態言言の発出である。経営を維持し、今後の需要回復への期待に対して、諦めムードが広がることもやむを得ない。先の見通しが全く見えない状況だ。
 政府も東京都も、国民・都民に外出自粛を要請するだけだ。支援金の給付、雇用調整助成金の特例措置の延長もさることながら、経済再開へのロードマープを示さなければ、行政に対する不信は募るばかりだろう。
 一方で、米国はどうなのか。ワクチン接種が順調に進捗していることに伴い、感染者も減速している。1日の感染者が未だ多いものの、バイデン大統領は財政出動による経済の急回復を進める方針を示している。
 東京と並ぶ大都市ニューヨークではデブラシオ市長が、観光回復へ過去最大の3000万ドル、日本円で約32億円の観光キャンペーンを6月から実施すると発表した。会見にはディクソン・ニューヨーク市観光局CEO、USトラベル・アソシエーションのダウCEOも出席し、ニューヨークからの観光再開を世界にアピールした。
 NY市観光局は2021年の国内外の訪問者数を3640万人と予測している。過去最高を記録した2019年の6660万人の半分以上の回復となる。コロナ禍で2020年の訪問者数は2230万人に減少したが、2024年には2019年を上回る6960万人の訪問者数を予想している。
 こうした経済や観光の再開、回復、完全復活へのロードマップが必要ではないか。東京オリンピック・パラリンピックの開催可否、ワクチン接種の遅れなどの課題はあるにせよ、目標数値がなければ、頑張ろうにも頑張れない。
 ダウ社長兼CEOは、「ニューヨークは常にリーダーであり、市の観光経済を再活性化する今回の投資は、旅行とそれを支える何百万人もの雇用を復活させる」と述べている。観光の重要性を象徴する言葉だ。
 コロナ禍のこの1年を経験して、言葉だけでは何の効果もないことを我々は実感している。国も都も情緒的なことばかりで、先の数字が示されない。コロナ禍を経ても2030年訪日6000万人と言われても、そこに至るまでの数値目標を示してほしい。
 経団連は、国際往来の再開に向けてワクチンパスポートの検討を進めること、検討に当たり担当省庁を明確にすることを政府に対して要望した。諸外国でワクチン接種が進み、ワクチンパスポートを活用した国際往来の再開に向けた議論が本格化している中で、日本で今後も隔離政策が続くようなことがあれば、日本の国際競争力に大きな打撃を与えることに懸念を表明した。
 観光もビジネスも国際往来が目前に迫ってきている。グアムは5月、ハワイも7月に海外旅行が本格化する。シンガポールと香港のトラベルバブルも5月下旬に再開される。EUは今夏にワクチンを接種した人を対象に米国からEUへの旅行者の渡航を認める方針を表明した。

 米国では1日の感染者数が今も3〜5万人台で推移している。日本の10倍の感染者数だが、ワクチン接種の進捗に伴い確実に減少している。日本も国際往来の再開に向けて、早急に道筋を示すべきだ。(石原)