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2017.09.25

観光財源の受益者は訪日外国人

 「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」の初会合が開催され、観光立国実現への新たな財源として、「出入国」「航空旅行」「宿泊」の3類型について、税や手数料を確保していく案が示された。
 要約すると、初回の会合では観光庁から新たな財源確保策の主な論点として、①観光立国の受益者②観光財源を充当する使途③訪日旅行需要への影響④財源確保として適正な手法─の4点が示された。
 ①観光立国の受益者とは、訪日外国人で、訪日プロモーション事業、国内受入環境整備などの直接の受益者となる。一方で、日本人はインバウンド施策による出入国環境の円滑化、航空ネットワークの拡充、航空アクセスなど公共交通機関の利便性向上などに関しては受益者になり得る。
 ②観光財源を充当する使途とは、財源を何に使うかだが、訪日プロモーション、出入国環境整備、国内受入環境整備など、観光立国推進のための施策に充当する。
 ③訪日旅行需要への影響とは、受益と負担の関係がポイントとなり、訪日旅行需要を牽引するLCCや定期航路などを利用する低運賃の旅客への影響を勘案する必要がある。
 ④財源確保として適正な手法とは、国際社会における内外無差別原則からは、受益と負担の関係で外国人のみに負担を求める行為はきわめて限定される。また、租税とその他の比較は、諸外国も様々で、わが国の受益者負担による手法を参考にしながら、負担者の理解を得やすく、徴収を含め円滑な執行が可能な仕組みとするなどの観点を踏まえて検討すべき。
 新たな財源確保は、訪日外国人旅行者数と旅行消費額の目標である2020年の4000万人・8兆円、2030年の6000万人・15兆円を達成するためののもの。したがって、受益者は訪日外国人であることがはっきりしている。であるなら、訪日外国人から一律徴収すればよいのではないか。
 ①観光立国受益者で、「日本人も受益者になり得る」としているが、既に空港・航空関連では複数の税を支払っており、新たな財源確保で日本人も受益者に組み入れることは説得力に欠ける。
 ②観光財源を充当する使途は、訪日外国人旅行者のためのプロモーションやインフラ整備。それが日本人の利便性向上にも該当するが、それは補足的なものである。
 ③訪日旅行需要への影響は当然受ける。しかし、訪日外国人の利便性向上のための財源確保であり、ここまで国家予算で観光プロモーション、観光インフラを整備している国は稀であり、訪日外国人に受益者負担を説明して理解を求めていく。
 ④財源確保として適正な手法で、「内外無差別原則から、受益と負担の関係で外国人のみに負担を求める行為はきわめて限定される」についても、訪日外国人に対して、持続的に利便性を向上するための財源確保であり、ここでこれを持ち出してくるのは極めて不自然な印象を受ける。
 こうして、①〜④の論点を見ると、訪日外国人のみを受益者として財源の負担を求めると、反発を受ける恐れがあり、日本人を含めることで、税徴収の影響を和らげるとの印象を拭えない。
 日本人の海外旅行者は、高いパスポート代など、諸外国と比べて海外旅行に費用負担を強いられている。それに加えて、訪日促進のために新たな負担を課すというのはいかがなものか。
 会議冒頭で田村明比古観光庁長官は、「観光先進国の実現に向けて、数だけでなく質の高い観光振興を図っていく必要がある。そうした中で、消費額の拡大を始め、日本の歴史・文化に対する理解促進など多面的な切り口で高次元な観光を実現するためには、一定の財源確保が求められ」と語っている。
 インバウンド拡大に向けて、質の高い観光振興を実現する。財源確保の目的がこれだけはっきりしているなら、米国ESTA(電子渡航認証システム)のように、訪日外国人旅行者に限定するのが自然の流れだろう。(石原)