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2018.07.09

WING

空自三沢基地、一丸でF-35A早期戦力化

今年度中に302飛行隊新編、練成、試験に全力
 
 日本周辺の安全保障環境が目まぐるしく変化する中、防衛大綱の見直しと、新中期防衛力整備計画の策定を踏まえ、航空自衛隊では新たな局面を見据えた対応を進めている。中でも一足先に、今後劇的な変化を遂げようとしているのが、三沢基地と同基地に所属する第3航空団であることは間違いない。今年度中にF-35Aを擁する第302飛行隊を新編するため、臨時F-35A飛行隊は現在8機のF-35Aによって操縦・整備士の練成や運用試験などに取り組んでいる。さらに三沢基地では、グローバルホークの配備に向けた準備も進められ、まさに変化の真っ直中にある。こうした三沢基地の現状などについて、第3航空団司令兼三沢基地司令の鮫島建一空将補から話を聞いた。

 


 鮫島司令、指導方針は「継承と創造」
 伝統を道しるべに新たな挑戦

 

 鮫島司令は指針としている指導方針として「継承と創造」を隊員へ伝えているという。第3航空団第3飛行隊は、航空自衛隊の戦闘機を擁する飛行隊として最も歴史のある飛行隊であり、このほど第3航空団も60周年を迎えたところ。「非常に伝統と歴史のある飛行隊を持つ航空団」との認識を示す。その一方で、第3航空団ではF-35Aという最新の戦闘機を受入れ、運用体制の構築に向けた任務を行っている。F-35Aという最新の戦闘機の運用体制を確立するためには「当然、これまでの飛行機とは運用の概念や、後方の概念が変わる」ことになり、新しい体制を一から創造する必要があるという。
 そこで鮫島司令は、新しい道を切り開くため、道を踏み外さないように指針が必要だと考えた。その上で「おそらく私たちが長年築いてきた歴史と伝統が道しるべになってくれるのではないか」と考えて、培ってきた伝統や組織の風土などを継承して、それをベースに新しい道をつくり上げていくよう、隊員へ呼びかけているという。
 さらに、継承と創造という大きな指針の中でも、次の3点を要望する。1つ目は“目的を理解して、そして仲間とともに共有せよ”ということ。目的を達成するためには、ゴールを見据えなければ、どの方向に進めば良いか分からなくなってしまう。「まずはしっかりと自分たちのゴールを見極め、目的を理解する」ということを隊員へ伝え、組織として理解した目的を共有することで、部隊として初めて力を発揮することができるようになるという。
 2つ目は“迷ったらまず挑戦しよう”といった要望だ。新しいことへチャレンジすると、人間はやはり保守的になり、冒険しないようになるもの。確かに「新しいことには失敗することもあるが、それでもよいと思っている」と話し、まずはチャレンジしてみるべきだとした。
 3つ目は、挑戦を基にした“前進しよう”ということ。チャレンジした結果、成功すれば一歩を踏み出すことができる。しかし「例え失敗したとしても、そこから何らかの教訓が得られ、次に向けた新しいアイデアも出てくる」という。失敗から何かを得て、少しでも前進する。
 F-35Aという全く新しい戦闘機の戦力化に向けた取組みには、チャレンジを続けることが必要だという。一方で伝統を重んじつつも、慣例として続けてきたことを打破する場面も必要になる。三沢基地ではこれまでF-2の運用を20年近く続けてきたが、良い部分を継承しながら、新しいものへチャレンジする精神を求めているという。

 

 今年度中に第302飛行隊新編
 練成進め約80名でスタート

 

 三沢基地では、1月26日に最初のF-35Aを1機受領して、6月8日には8機の体制となった。順調に航空機を増加させ、今年度中には10機の受領を完了する予定だ。10機の配備をもって、正規の運用部隊の第302飛行隊が新編される予定で、臨時F-35A飛行隊ではパイロット・整備士の教育、練成などが順調に進捗している。鮫島司令によると、当初の不安に感じる部分を克服した上で、計画が順調に進行するようになり、予定どおり今年度中に第302飛行隊が新編できる考えだとした。
 F-35Aは、三沢基地に8機が配備されるようになった。現在、臨時飛行隊が行っている任務は、基礎的なデータの収集などを行う運用試験と、操縦・整備士など人員養成のための課程教育の準備、といった2点になる。1機しかなかったときは、単機でのデータ収集などを行っていたが、戦闘機は基本的に複数機で運用する。そのため、8機に増えたことで、単機ではできなかった、複数機による運用試験などができるようになり、データの取得が進むようになった。
 現在、F-35Aのパイロット・整備士の養成を進めているところだが、約40名で発足した臨時飛行隊はスタッフの育成によって、順調に人員を伸ばしていて、パイロット・整備士含め80名程度で、第302飛行隊を新編することになる。

 

 ITCでの整備士教育
 立体的に細部まで理解

 

 F-35Aのシミュレーターを備えた統合訓練センター(ITC)では、整備士とパイロットの教育を実施することとなっていて、すでに整備士の教育は始まっている。教育には、コンピューターと電子教材を主として活用していて、この教材は米国で一元的に製作されたものが供給されている。鮫島司令によると「非常に効率的な教育システムだ」として、コンピューターが機体を再現した3Dモデリングによって教育が行われているという。
 それまで座学では、写真などを使って平面的には理解が深められた。しかしF-35Aの教育システムでは、機体を360度見渡せるほか、本来見えにくい部分も再現されているという。そのため教育を受ける隊員は、実機に触れる前に構造が理解できるようになり、現場からは理解がしやすい、という評判を聞いているとのこと。
 ただ、1つ難点を挙げれば、すべて英語による教育になること。F-35Aの整備士として従事するには、英語の能力の素養を確認した上で教育を行っているが、隊員たちは毎日英語漬けの生活となるため、苦労しているところだという。
 運用試験は、8機となる以前の数がそろっていない環境では、日本の気象環境、訓練環境への適合性などの試験を行い、今のところ問題がないことが確認された。現在は機数が増えてきたこともあって、より実際の運用に近い環境の中で確認を行っている。現在行っている試験では、実際に航空機を運用する際の基本的な諸元として、効率的なスピード、高度など、様々なデータを取っていく。さらに、それをもとにして運用する上での基本的な飛び方を決めていく。それらのデータをさらに複数機で試験を行って確認していく。併せて整備でも作業のデータ取りなどを行っている。

 

 一元的な部品供給
 運用実績上げ効率的な体制へ

 

 F-35Aの運用に当たり、従来の航空機とは大きく異なる、ALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)と呼ばれる国際的な後方支援システムによる一元的な部品供給・整備が始まることになる。従来は、交換すべき部品や予備の部品を自衛隊が取得・保有して、必要に応じて交換していく方法であった。F-35Aの場合は、運用するすべての国を対象に、米国と企業が主体となって一元的にサポートする体制になっており、各国から部品等のニーズが出た段階で、それらの部品を供給することになるため、必要になったときに部品が供給されるよう包括契約がなされている。
 鮫島司令によると、日本では今後、より効率的な後方体制の構築が期待されるとし、一元的なサポートによって「必要なときに部品が供給される効果には期待している」という。しかし、運用を始めて日が浅いため、新たな体制の効果や量など、運用を進める上で、今後確認していく必要がある。
 今はまさに、メーカーの一元管理による整備の効果などについて、確認する試験を行っているところ。今後、運用の実績を上げていかなければ判断できないとした。また、部品供給のタイミングなども重要で、確認していくべき項目は多いという。

 

 F-35Aの情報収集能力
 統合運用の分野で発揮

 

 F-35Aは、これまでの第4世代機に比べて「第5世代機といわれる格段に進化した航空機だ」と高く評価する。高いステルス性による残存性、多様で高性能なセンサーを装備して、高い情報収集能力と、その情報を一元的に処理する機能を有する。そのため、パイロットは高い情報認識の能力を得ることができる。そして、特徴の1つであるデータリンク性能は、収集・処理した状況を他機と共有することができる。戦闘機は従来、航空作戦の範囲に限定された役割を求められてきた。しかしながら、F-35Aは、その優れた性能によって「航空の分野に限らず、陸・海を含め、統合運用の分野で多大な効果を発揮する」ことが期待できるとした。今後F-35Aが任務に就く場合、対領空侵犯措置の任務については、現在検討しているところであり、ステルス性を持つ第5世代機による対領空侵犯措置について、運用試験の状況を見て、今後検討していくことになるという。
 またF-35Aの装備品として導入を決めた、スタンド・オフ・ミサイル(JSM)の導入については、今年度予算で計上されたところ。しかし実際には取得、運用までは、かなりのリードタイムが必要となる。通常、数年単位での期間が必要になるため、実際の導入までには、まだ数年先になる見込みだという。

 

 米会計検査院966の課題指摘
 日本組立機体への影響など確認へ

 

 米国の会計検査院はこのほど、F-35Aに対して966の課題を指摘した。一方、米軍は、指摘のあった事項の課題はすでに解決へ向けて着手しているという。航空自衛隊としては、それらの細部を米軍へ問い合わせている段階であり、指摘のあった課題を確認後、改善に向けて取り組む予定だ。
 報告の多くの指摘は、機体構造等の飛行安全に影響を与える事項ではなく、ソフトウエアに当たるということで、それらは常に更新され続けるもの。どのタイミングのソフトウエアに不具合があり、それが航空自衛隊のF-35Aにどのように関係してくるのか、確認を行うという。

 

 グローバルホークの配備
 21年度以降、今年度は施設設計

 

 グローバルホークの配備については、当初の計画よりも、多少の遅延が発生している状況。現在のところ、三沢基地では2021(平成33)年以降の配備を予定している。基地で行う準備としては現在、受入施設の建設に向けた設計などを行っている段階。その次のステップとしては、今年度中に受入施設の建設予定地に建っている老朽化した格納庫の取り壊しに着手する予定となっている。
 その後、必要な予算措置などを経た上で、受入施設の建設に取り組んでいく。受入施設は、格納庫のほか、同機を地上から誘導する器材の格納施設も整備することになるという。

 

 自衛隊・米軍・地元がタッグ
 三沢は「恵まれた環境」

 

 日米共同運用については、三沢基地が日米戦闘機運用部隊がともに所在する、日本唯一の基地であり「恵まれた環境にある」と説明した。日ごろから、共同対処能力の実効性を向上するため、機会を捉えて共同訓練を行っているところ。さらに、三沢基地の航空管制は、自衛隊が行っている。通常、米軍の飛行部隊が運用する基地では、米軍が航空管制を行うことになっていて、自衛隊が管制を行う三沢基地は特に珍しい。「それほど米軍からの信頼性も高く、航空支援を行う部隊なども含めて日米共同の向上へ努力している」と良好な関係を評価した。
 鮫島司令が最も心掛けていることは、「日米の隊員同士が相互に理解して、その中で友情を築き上げていくこと」が基盤になるということ。その考えは、米軍の基地司令官も共有しているところで、普段から機会を捉えて、友好親善など親睦を深める機会をつくるよう、協力しているところだという。
 さらに恵まれていることとしては、そうした友好関係を地元三沢市でも同じ思いだということ。三沢市では、日ごろから共存共栄をスローガンに掲げて、周辺自治体、航空自衛隊、米空軍の3者が交流する機会をつくって、様々な行事などに参加しているという。鮫島司令は、「築いた良好な関係から、日米同盟を底の部分から強固な関係としていきたい」と述べ、地元でも積極的に米軍を受け入れ、お互いによい環境をつくっていく考えが非常に強いことから「自衛隊としては、非常に恵まれた環境で勤務することができている」と謝意を示した。