記事検索はこちらで→
2022.01.13

最新のヨーロッパ旅行市場動向

ヨーロッパの旅行需要が急回復

 

世界に先駆けて海外からの旅行者の受け入れを再開したヨーロッパ市場。EUは7月1日から「EUデジタルCOVID証明書」を導入し、ワクチン接種証明、陰性証明、新型コロナウイルス感染症からの回復証明を活用した国際往来の再開というスタンダードを打ち出した。それから5カ月。ヨーロッパの旅行市場は、欧州域内はもとより北米や南米などとの国際交流もかなりのスピードで回復しつつある。最新のヨーロッパの旅行市場動向について、JTB欧州グループ本社の鈴木浩之介執行役員事業開発統括に聞いた。

JTB欧州グループ本社の 鈴木浩之介 執行役員事業開発統括

 

スペインの国内旅行、コロナ前水準に回復
インバウンドも5割まで回復

 

 EUでは7月1日より「EUデジタルCOVID証明書」が導入された。その仕組
みを活用し、欧州各国はそれぞれに自国の出入国条件を決定しているが、デジタル証明があれば無条件に海外からの旅行者を受け入れる国も多く、より自由な往来が始まっている。2021年の夏休みシーズンは、欧州域内からリゾートへの旅行需要が急速に回復、シティについては需要回復がやや遅れていたものの、明るい兆しが見え始めていた。
 それから5カ月。現在のヨーロッパの旅行動向について、JTB欧州グループ本社の鈴木執行役員は、「スペインの国内旅行はほぼコロナ前の水準に戻っていると言っても過言ではない」として、スペイン観光省の統計でも国内旅行はほぼ2019
年度レベルまで回復しているとした。
 鈴木執行役員は9月以降、カナリア諸島のテネリフェ島、巡礼路サンティアゴ・
デ・コンポステーラで知られるガリシア州の隣のアストゥリアス州、南スペインのアンダルシア州を視察に訪れたが、「観光地はかなり賑わっている。旅行者は急増している」として、スペインの旅行市場が目覚ましい回復を見せている様子を語った。
 スペインは、EUをはじめ英国、米国、日本、南米でもブラジルなどからワクチン接種証明等があれば隔離処置等なく入国が可能となっており、米国からスペインへの旅行需要も回復傾向にある。スペインのインバウンド旅行者数も「コロナ前の5割は戻っている」として、国内のみならず国際市場も急速に回復しつつあるとした。

フランスとの国境沿いにあるバスク地方・オンダビリアのアルマ広場(写真提供=JTB)

 

 

日本を含むアジア市場だけが戻らない
早期の往来再開を期待

 

  そうした中、唯一戻っていないのがアジア市場だとした。鈴木執行役員は、「日本マーケットを含むアジアマーケットだけが戻ってきていない。観光地に行くと、英語もフランス語もドイツ語も聞かれるが、アジアからの旅行者はFIT、グループともに全く見かけない」として、日本やアジアからの旅行者の回復の遅れが顕著だとした。
 ヨーロッパ、とくにスペインは観光大国で、ワクチン接種の進展を背景に感染防止対策を行いながら人の往来を再開し、経済を動かす方向に舵を切っている。その点、「ヨーロッパとアジアは大きく異なる」と理解を示しつつも、アジアは世界
の潮流から遅れていることを憂慮した。
 日本のワクチン接種率は75%を超えており、経済再生への機運も高まっている。アジアのなかでも往来再開に踏み切る国は増えつつあることから、今後、日本やアジアの国際往来が早期に再開していくことを期待した。

 

スペインは屋内マスク着用も「ほぼ規制なし」
島へ行くには接種証明などの提示必要

 

 往来再開が進むヨーロッパでも、各国によって国内での経済活動における規制は異なる。とくにレストラン入店時などにワクチン接種証明や陰性証明の提示を求められるかどうかは、ヨーロッパを旅行する上で確認が必要になっている。

 スペインについては「規制はほとんどない」として、屋内でのマスク着用、レストランの屋内席のキャパシティ75%、1テーブルの人数は屋内6席、テラス席10席までといったルールが州によってはあるものの、「レストラン入店時などにワクチン接種証明や陰性証明を提示する必要はない」。スペインではマスクの着用率も比較的高く、マスクの着脱がスムーズなようにマスクを紐で首に下げるファッションもよく見られるという。
 ただし、島については対応が異なる。テネリフェ島への訪問時には、ホテルチェックイン時にワクチン接種証明の提示が求められたほか、マドリード空港到着時にもワクチン接種証明等の提示が求められたとして、いわば島についてはEUなどからの渡航者と同様の対応となっている。

 

フランスとの国境沿いにあるバスク地方・オンダビリアのアルマ広場(写真提供=JTB)

 

仏や独はレストラン入店時に接種証明等を提示

 

フランスやドイツなどではレストランや観光地などへの入場時にワクチン接種証明や陰性証明等の提示を求められる。陰性証明は72時間以内または48時間以内の証明書の提示が必要なことから、「ワクチン接種証明がなければ、その都度PCR検査を受け続けなければならず、ワクチン接種証明なしにヨーロッパを周遊旅行することは現実的ではない」としている。
 ヨーロッパでは12歳以上にワクチン接種証明等の提示を求める国が多く、12歳以上の子供の接種もかなり進んでいるという。そのため今後、日本から12歳以上
の子供連れでヨーロッパ旅行をする場合には注意が必要だとした。
 日本では国内でのワクチン接種証明の活用はまだほとんど行われていないが、ヨーロッパは事情がかなり異なる。そうした事情を加味した上でヨーロッパ旅行の商品造成や顧客への案内を丁寧に行っていく必要がありそうだ。

バスク地方のサンセバスチャンは ヨーロッパ屈指のビーチリゾート(写真提供=JTB)

 

在欧日本人含めて旅行需要は活発化
欧州内日帰り旅行の実施や1泊2日のツアー企画など

 

  JTB欧州グループ本社が仕入手配から商品造成まで手掛ける現地発着周遊バス「ランドクルーズ」は2022年4月に運行を再開する計画だが、ヨーロッパ域内の旅行需要は先行回復しており、そうした需要を取り込むための取り組みも始めている。
 ランドクルーズでは、8月にスペインのバスク地方を巡る3泊4日のツアーを在欧日本人向けに実施し、20名の参加を得て成功裏に実施した。また、JTBが提供する海外現地オプショナルツアー「MYBUS」でも、在欧日本人の旅行ニーズを受けてロンドンやベルリンで日帰り旅行を企画実施。スペインのリオハワインのワイナリーを訪れる1泊2日のツアーも11月下旬に企画しており、「欧州域内では在欧日本人を含めて旅行需要が活発になってきている」と手応えを示した。
 今後もランドクルーズでは、欧州域内で訪問可能な都市をめぐるツアーを企画検討していく。在欧日本人を主なターゲットとしつつ、欧州との間の往来が再開されたアメリカ、シンガポールの在住日本人の旅行需要の開拓にもつなげたい考えだ。

 

ヨーロッパムンド社のバスに日本語オーディオガイド
日本市場の需要回復動向を探る

 

 来年1.3月には、JTBヨーロッパグループのヨーロッパムンドバケーションズが運行する英語のバスに日本語環境を整える事業も始める。ヨーロッパムンド社は、スペイン語や英語でバスを走らせており、南米や北米からの旅行需要回復を背景にバスの運行本数を増やしている。
 そこで、ヨーロッパムンド社が英語で運行するイタリアとスペインの2コースについて、訪問先の全ての観光地を日本語で案内するオーディオガイドを作成した。「ツアーは英語だが、観光地に着いたら日本語オーディオガイドで観光地を楽しめる」として、日本市場にトライアル的にアプローチし需要回復動向を探っていく考えを示した。

ドイツの人気観光地ホーエンツォレルン城 (C)DZT_Francesco Carovillano

 

 

→次のページへ「ランドクルーズJTB、来年4月に運行再開」