記事検索はこちらで→
2025.10.07

ウイングトラベル特集

【潮流】高市新総裁が描く観光の針路

 10月4日に行われた自民党総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出された。女性初の自民党総裁の誕生は大きなトピックスの一つであり、国際社会も今回の総裁選をさまざまな視点で受け止めている。また、総裁選を争った5氏は今後の日本のあり方について多角的に語っており、筆者も興味深く見てきたところだ。
 当面の焦点は、首班指名を行う臨時国会の開会に向けて、自民党の幹部人事や野党との連携のあり方をどう描くか、という点になってくるだろう。
 ここで改めて、高市氏が総裁選で掲げてきた政策を確認しておきたい。
高市氏は「総合的な国力を強化する」を基盤に、「安全・安心と強い経済」「地方の伸びしろと暮らしを守る」「防衛力と外交力の強化」「次世代の責任」「信頼される自民党」という五つの政策を掲げた。
 安全・安心の確保と強い経済の実現では「責任ある積極財政」を前提に、「生活の安全保障」「経済安全保障の強化と関連産業の育成」「食料安全保障の確立」「エネルギー・資源安全保障の強化」「『現在と未来の生命』を守る令和の国土強靭化対策」「サイバーセキュリティ対策の強化」「健康医療安全保障の構築」「成長投資と人材総活躍の環境づくり」の8つのポイントを示した。
 地方の伸びしろと暮らしを守るでは、「『地域ごとの産業クラスター』を全国各地に形成し、世界をリードする技術・ビジネスの創出と地方のDX化を推進」「地場産業の付加価値向上と販路開拓を力強く支援」「地域公共交通の維持を支援」「日本郵政の活性化により地域の郵便局ネットワークを活用」「組織犯罪・オンラインカジノ対策などによる治安力強化を推進」「外国人問題の司令塔を強化し、不法滞在者対策や土地取得規制の検討を進める」点を掲げた。
 今回の総裁選において、高市氏の政策に「観光」は直接的に登場しないが、観光との接点は、外国人政策や経済安全保障の切り口、そして地方の伸びしろという二つの視点にあると見られる。
 高市氏は出馬にあたり「世界中からたくさんの観光客が訪れてくれるのはうれしいことだ。日本の産業には人手が足りていないところがいっぱいあるので、外国から働き手を補ってもらわなければならないところもある。しかし、こうしたことはゆっくり進めなければならない。急に物事を進めたり、焦ってやっていては日本の社会をとげとげしくするだけだ」と発言している。
 この発言からは、訪日外国人観光客の受け入れや外国人労働力の活用を重視しつつも、拙速を避けて慎重に進めるべきだという考えがうかがえる。「訪日6000万人、消費額15兆円」という旗印は維持しつつ、受け入れ管理には一定の厳しさで臨む可能性が高い。
 あわせて、オーバーツーリズム対策でも毅然とした姿勢を取り、観光客のマナー問題に一石を投じる展開も想定される。
 一方、地方の存在感という視点では、石破現内閣が取り組んできている「地方創生」の流れを継続し、より高みに引き上げることになるのではないかと見られる。
 高市氏は「地方の大きな『伸びしろ』を生かし、日本列島の隅々まで活発な経済活動が行き渡る国を創る」とし、その一つとして「観光業など地場産業の高付加価値化を支援する」を重要政策に掲げている。以上から、地方観光の底上げは一段と強化されるのではないだろうか。
 そして、もう一点注目しておきたいのが、観光に関連した“お金”にまつわる動きだ。
 2030年を見据えた新たな観光立国推進基本計画の策定過程において、国際観光旅客税の見直し、宿泊税の導入・拡充、訪日客向けの「二重料金(デュアルプライシング)」などについて活発な議論が行われているところだ。新総裁となえる高市氏がこれらの観光財源を取り巻く動きについて政策をどのように考えているのかという点も興味深い。
 高市氏は新総裁選出後のあいさつで「全世代総力結集で、全員参加で頑張らなければ立て直せない。日本のために、自民党を立て直すために、それぞれの専門分野で仕事をしてもらうように心からお願いしたい」と語った。そうした中で、観光を専門分野とする人材をどのように舵取りし、観光立国への歩みを進めるのか。今後の人事・予算・制度設計を見極めていきたい。(嶺井)