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2025.07.08

ウイングトラベル特集

【潮流】日本人旅行「活性化」への道

 観光庁は7月1日付で旅行振興担当参事官を設置する組織改正を発表した。同庁は同日付で村田茂樹長官が就任し、新体制がスタートした。旅行振興担当参事官の設置について観光庁はプレスリリースを発出。新組織への並々ならぬ意気込みを示した格好だ。
 新設した旅行振興担当参事官は、これまで観光産業課が担っていた旅行業に関する業務。そして観光人材の確保・育成に関連したもの。国際観光部のアウトバウンド促進、さらに観光地域振興部観光資源課が担当していた国内交流に関する分野を担当することとなる。
 今回の組織立ち上げの狙いとして、観光庁はさらなる国内旅行の活性化に向け、日本人の国内旅行を高めていくこと。好調な訪日インバウンドとの相乗効果を生み出し、アウトバウンド需要を喚起していくこと。そして、観光需要の回復等に伴い人手不足感が一層高まる中で観光人材の確保・育成を挙げた。
 旅行振興担当参事官が向き合う主要課題について、足元の状況を改めて整理しておきたい。
 国内旅行に関しては、旅行消費額は過去最高を更新しているものの、旅行者数の横ばい基調が続いており、この状況からの改善が求められることになる。この課題については政府サイドも令和7年版観光白書において触れていることからも明白だ。
 アウトバウンドについてはコロナ前の2019年に過去最高の2008万人を記録した。しかし、コロナ禍とその後の物価高、為替動向を背景として、7割前後の回復率にとどまっているのが現状だ。この停滞する状況をいかに改善させていくかがカギとなる。
 人材の問題については、旅行・観光業に限ったことではないものの、観光需要の回復にあわせてさらに深刻なものになっているのが実情で、いかにして労働者の関心を観光・旅行産業に目を向けさせるかが重要だ。
 そのような課題に対して、今まさに必要とされるのが実効性ある政策だ。
 訪日インバウンドが過去最高の勢いで拡大する中、地方誘客を目的とした各種支援策も次々と打ち出されている。しかし、こうした動きが進めば進むほど、日本人旅行者が置き去りにされている印象は拭えない。
 たとえば、広域周遊旅行の促進において、外国人旅行者向けには利便性の高い周遊パスが整備されている一方で、日本人には個別に手配する仕組みが一般的だ。その結果、旅行費用において日本人の方が割高になるケースも少なくない。
 地域に足を運び、地域の人々と触れ合い、地域経済に貢献するという点において、旅行者の国籍に違いはないはずである。だからこそ、日本人旅行者も公平に旅を楽しめる仕組みを整備していくことが、今後の観光政策において欠かせない視点ではないだろうか。
 アウトバウンド振興においては、今こそ「コミットメント=数値目標」の提示が重要ではないだろうか。現在、パスポート保有率や海外修学旅行の実施率、地方空港の国際線就航便数などに注目が集まっているが、こうした分野であえて明確な目標値を設定することで、取り組むべき課題がより具体的に浮かび上がることになる。
 抽象的な理念や方針だけでは実効性に乏しい。現実に即した視点から、アウトバウンドの潜在需要を喚起するための明確な道筋を提示することが求められているのではないだろうか。
 人材面においては、旅行・観光業全体を俯瞰的にとらえる視点がこれまで以上に求められている。訪日インバウンドの活況を背景に、観光産業が「輸出産業」の一角として注目を集めるなか、この業界で働くことの魅力や将来性を、あらためて社会全体で見つめ直す必要がある。
 長く安心して働ける職場環境、キャリアパスの明確化、労働条件の改善などを含め、観光産業を持続可能な“基幹産業”として再構築していくことが急務だ。同時に、若者からも「選ばれる産業」としての地位を取り戻すための戦略的な人材確保・育成策が求められている。
 今回、観光庁が日本人の旅行振興や観光人材の確保・育成に本格的に取り組むべく、新たな組織を立ち上げた意義は大きい。旅行振興担当参事官には、ぜひ実効性ある政策の立案と着実な実行を期待したい。(嶺井)