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2023.06.28

WING

第179回「日本が危ない」宥和政策で中国をつけ上がらせるな

ASEANへの浸透度に驚愕
あたかも中国人の国防相

 

 中国の東南アジアに対する浸透度は想像以上に進んでいる。それを示したのが6月上旬、シンガポールで行われたアジア太平洋地域の安全保障担当閣僚らによる「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」だった。米国と中国の国防相による会談が実現するか注目されたが、両者は立ち話した程度で会談自体は行われなかった。むしろ、中国は「緊張を高めているのは米国だ」と会合を米国非難の場に利用した。
 会合から帰国した日本政府関係者の感想は一言、「憤り」だった。ホスト国であるシンガポール国防相ウン・エンヘンの発言が憤りの直接の原因だった。
 ウンは歴史問題について次のように述べた。
 「東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は、第二次世界大戦後の日本にはドイツのような精算をしていないという印象を抱いている」
 日本はドイツと比べて先の大戦への取り組みが不十分であるという紋切り型の疑問を持ち出したのである。
 ウンはそのうえで「日本にとって最大の課題は中国との関係を改善することだ」と述べ、日本が防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額すると決めたことについて「軍事力強化に関して(近隣国を)安心させること」と注文をつけた。
 さらには、「私は南シナ海よりも北東アジアを心配している」とまで述べた。中国とフィリピン、ベトナムなどによる南シナ海の領有権をめぐる争いでは、緊張緩和と紛争防止に向けた協議が行われているのに対し、北東アジアではそうした対話がないというのがその理由だ。急激に軍事力を増強し、周辺国との間で摩擦を生じているのは中国であって、日本ではないにもかかわらずだ。ウンの発言を聞いた日本政府関係者は「まるで中国の国防相が発言しているのかと思った」ともらした。

 

ドイツと比べて謝罪要求
20万人の都市で30万人虐殺

 

 戦後処理をめぐる日本とドイツとの比較は中国の常套手段である。中国国営新華社通信は1995年の戦後50年決議、いわゆる不戦決議について論評した時も「日本とドイツの戦後処理は、天と地ほどの差がある」と形容した。ドイツは謝罪したのに対し、日本は謝罪が不十分であるとして、日本を批判し続けている。

 

シャングリラでは日中会談は実現したが、米中間では実現しなかった(提供:防衛省)

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