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2021.05.17

ウイングトラベル

★中部空港、20年度決算は180億円の赤字に

 リーマンショックを遥かに超える影響受ける

 中部国際空港会社が5月14日に発表した2020年度決算によれば、当期純損益が179億9000万円の赤字となった。前年同期の47億4000万円の黒字から、大幅な赤字に転落した。売上高は前年比77%減少した151億円(前年同期:655億8000万円)に大きく縮小。損益面では営業損益が179億1000万円の損失(同:営業利益76億4000万円)となり、経常損益は170億2000万円の損失(同:経常利益72億3000万円)となった。
 都内で記者会見に臨んだ各務正人副社長は、「グループ全社をあげて経費の削減及び設備投資の抑制を徹底することで、会社の財務状況への影響が最小限となるよう取り組んだが、売上高が8割近く減少するなど減収規模が遥かに大きい」と説明。「リーマン・ショック、新型インフルエンザの影響を受けて(当期純損失に転落した)2009年度を遥かに上回る開港以来最大の損失を計上した」と話すなど、苦境にあることを吐露した。ちなみに営業損益ベースで赤字となったのは、2020年度決算が初めて。

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 中部空港グループでは5月1日現在、70名が在籍出向中。計画も含めれば、グループ従業員の1割に相当する100名規模の社員が行政機関、民間企業などに出向する見通しで、「何とか雇用を守っていきたい」として、グループ社員の雇用を維持する姿勢をみせた。

 

 空港事業売上、62%減の113億円

 

 2020年度決算の売上高を事業毎にみると、空港事業の売上は62%減少し113億4000万円(同:298億8000万円)に留まった。
 各国政府が厳しい出入国制限を講じたことで、路線ネットワークが崩壊した国際線の売上高が139億1000万円もの減収に直面したことが影響。中部空港の国際旅客便は昨年4月以降、全便が一時的に運休となっており、その後6月に一部運航が再開されたものの、発着回数及び旅客数の回復はほとんど進んでいない状態が続いている。

 

 国際は139億円減、国内も31億円減

 

 そのため年度を通した旅客数累計は、対前期比99.7%減少した1万9000人に留まり、もちろん開港以来最低の水準を記録した。国際線の発着回数も87.7%減少し、わずか5000回だった。
 一方、国内線売上高は31億3000万円の減収だった。各務副社長は「7月には旅行需要の回復や地域の観光関連消費の喚起などを目的とした政府によるGoToトラベル事業が開始され回復の兆しが見えた」と、一時はGoToトラベル事業の効果で状況が好転していたことに言及しつつも、「秋以降再び感染者が増加し、冬にGoToトラベル事業が一時停止された以降は、厳しい状況が続いた」と振り返った。
 その結果、国内線旅客数は68.8%減少した199万人となった。国内線では中部空港を拠点としたエアアジア・ジャパンが事業停止に追い込まれたものの、ピーチ・アビエーションが新規就航し、中部空港を発着する路線ネットワークを拡充中だ。ただ、年間を通した国内線発着回数は前期比45.3%減少した3万6000回に留まった。

 

 商業売上、91.2%減で29億円に縮小

 

 旅客数が大幅に減少したことで、中部空港の売上高の大きな柱である商業事業も危機に直面した。前年同期は328億9000万円もの売上を計上した商業事業だったが、20年度は91.2%減少した29億円にまで縮小してしまった。
 各務副社長は「国際線が運航再開後も運航便数は極端に減少していることにより大きく影響を受けた」とのことで、免税店売上は前年同期比で229億7000万円減少し、「ほぼ消失してしまう状況となった」という。
 免税店以外の商業店舗も多くの店舗が休業に追い込まれているほか、三密回避の観点から各種イベントを開くこともままならず、70億2000万円の減収となった。

 

 免税店売上は230億円減で「ほぼ消失」

 

 ちなみに中部空港にはコロナ禍以前前には127店舗が入居していたが、「現時点で営業している店舗は59店舗(休業・退店含む)」に留まっているという。店舗の退店が決定して空いてしまった場所に関しては、新たなテナントの入居に向けた営業を展開しており、新規に入居する店舗が登場するなどといった成果もみられるようになってきた。
 そうしたなかコロナ禍で空港内の店舗も厳しい状況が続いていることから、中部空港では売上が立たない期間は家賃が発生しないようにするなど、未曾有のコロナ危機を入居テナントと共に乗り越えて行きたい考えだ。
 なお交通アクセス施設事業の売上高も前期比19億3000万円の減収となった。航空旅客をはじめとした来港者数が前期と比べ大きく減少したことが影響した。
 
 21年度通期予想、当期純損失125億円予想

 

 各務副社長は2021年度の連結業績予想にも言及した。このなかで売上高は25%増加する189億円、営業損失113億円、経常損失123億円、そして当期純損失125億円との見通しを明らかにした。
 その前提条件は発着回数が6万7000回(20年度:4万1000回)、旅客数が123%増加した450万人に据えた。このうち国際線が40万人(1977%増、20年度:38万人)、国内線は410万人(105%増、20年度:199万人)とした。
 こうした前提条件について各務副社長は「収益の回復の鍵を握る国際線は、各国における感染状況や入国制限の状況に大きく影響されるため、見通しは極めて流動的だ」とコメント。「依然としてコロナの影響を大きく受けており、未だ本格的な回復時期については、はっきりと見通すことができる状況ではない」としながらも、「今後のワクチン接種の動向や入国にかかる政策次第とはなるが、年度後半において少しずつではあるが回復に向かうであろうと見ている」と話し、ワクチン接種が進む年度後半における国際線の段階的な回復に期待を寄せた。
 一方、国内線は国内感染者数の動向に影響を受けて旅客数が増減するため、国際線と同様に流動的な見通しとはなるものの、需要の回復は国際線に比べれば早いとみられるほか、ワクチン接種の進展とあわせて全体的には回復していくと予想した。

 

 黒字回復、旅客数900万人規模で

 

 業績の黒字回復見通しについて各務副社長は「需要の回復次第であることから現段階でははっきりとは申し上げらない」としながらも、「過去には2011年に旅客数900万人ぐらい(国際線:437万人、国内線451万人)のところで収支トントン、若干の黒字という時代があった」ことを振り返りつつ、「第2ターミナルの供用開始など、環境の違いはあるが、この数字が1つのメルクマークになるのではないか」と話し、旅客数が900万人規模に回復すれば、黒字化することができるだろうとの見通しを示した。

 

※写真=2020年度の決算概況を説明する中部空港会社の各務正人副社長