ウイングトラベル特集
【潮流】観光成長の岐路を越えて
2026年がスタートし、観光関連業界では、新年会などの場を通じて業界トップから今年の意気込みが相次いで語られた。そうした関係者の声に共通して感じられるのは、2026年を将来の観光産業の発展に向けた方向性を定める年として位置付けている点である。
2025年は訪日インバウンドが好調に推移した。正式な数値は1月21日の日本政府観光局(JNTO)の発表を待つ必要があるものの、訪日外国人旅行者数は4000万人の大台を突破する見通しだ。また、大阪・関西万博の開催や、中部圏で初めて実施されたツーリズムEXPOジャパンを通じて、国内外のデスティネーションの魅力を多くの消費者に訴求できた年でもあった。
一方で、課題も浮き彫りとなっている。物価高や円安を背景に、日本人の海外旅行市場はコロナ禍からの回復を成し遂げるには至らなかった。加えて、好調な訪日需要の裏返しとして、一部地域では観光客の集中が進み、観光客によるマナー違反が住民生活を脅かす事例も顕在化するなど、観光のさらなる成長に向けた対応が求められている。
こうした中、2026年は政府による「第5次観光立国推進基本計画」の初年度を迎える。気持ちを新たに観光の将来像を見据える好機といえる。
観光庁の村田茂樹長官は、日本の観光を「さらなる高みを目指す年」と位置付け、日本旅行業協会(JATA)の髙橋広行会長も「価格訴求から価値訴求への変革の年」との認識を示した。
長年にわたり観光産業をけん引してきた全国旅行業協会の二階俊博名誉会長は、「2025年の動きを振り返り、観光が日本経済を力強く支える存在であることを改めて実感した」と述べたうえで、「観光の成長を確かなものとする一年になる」と指摘した。
また、観光産業の成長やコロナ禍からの観光復活を政治の立場から支えてきた菅義偉元首相も、「2030年の訪日外客6000万人、消費額15兆円の達成に向けて、人材確保などさまざまな課題はあるが、官民を挙げて乗り越えていってもらいたい」とエールを送った。
旅行・観光を取り巻く環境がこれまで以上に急激に変化すると見込まれる中で、2026年は将来を見据える好機として位置付けられている。民間企業においても、中長期視点での取り組みが進む。
JTBは2035年を見据えた長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」を発表した。山北栄二郎代表取締役社長執行役員は、今回のビジョン策定にあたり1年間にわたって社内で議論を重ねてきたことを明かし、「これまでの延長線上で物事を考えないために、10年後にありたい姿を定めた」と語る。JTBは事業のグローバル化を一段と加速させるとともに、持続的成長を軸とした投資に舵を切り、2035年にグループ総取扱額2.5兆円と、2024年度比で1.5倍の達成を目指す考えだ。
こうした中長期視点での取り組みが官民に広がり始めた矢先、日本の政治を取り巻く動きが突如として混沌とし始めた。
高市早苗首相は解散・総選挙に打って出る意向を表明し、これに対峙する形で立憲民主党と公明党は新たに「中道改革連合」を立ち上げることとなった。観光産業にとっては、将来を見据えた政策と投資を本格的に動かそうとする局面で、政局が不透明さを増す事態となっている。
通常国会開会の早い段階で衆議院が解散され、総選挙に突入すれば、令和8年度(2026年度)予算の成立が新年度にずれ込む可能性は高い。観光関連政策を担う各種予算の執行も後ろ倒しとなり、地域や事業者の現場に影響が及ぶことは避けられない。中長期の成長戦略を描くうえで、政策の時間軸と産業側の投資判断がずれ込むリスクは、観光産業にとって看過できない課題といえる。
日本の行く末を主権者である国民の判断に委ねる局面を迎えることになるが、観光産業は政局の動向に翻弄される存在であってはならない。インバウンドの量的拡大にとどまらず、価値創出や地域との共生、持続可能性を軸とした成長モデルへの転換は、待ったなしの課題である。2026年を、単なる回復の延長ではなく、日本の観光が次のステージへ進むための起点とできるかどうか。その成否は、官民双方の覚悟と実行力にかかっている。(嶺井)
