【潮流】中部圏観光の「いま」と「これから」
9月25日~28日にかけて開催された「ツーリズムEXPOジャパン 愛知・中部北陸」。愛知県で初開催。そして、中部・北陸という広域を舞台としたイベントとして行われたことで、東京や他の地域の開催とはまた異なった趣を感じさせてくれたイベントとなった。
期間中に行われたビジネスカンファレンスや現地で行われたさまざまな発表や来場者数の結果など、詳細については次号で紹介する予定にしているので、是非注目していただきたい。
今回は筆者も現地で取材をする機会に恵まれ、中部圏と観光の関わりということを肌で感じることができた。
あわせて、日本国内各地域における観光の「リアル」に触れることや観光受入体制の実態を知ること。そして、それぞれの地域の人々に世界の観光の「現在地」を知らしめるという観点から、ツーリズムEXPOジャパンを東京と地方の持ち回りで実施することは今後も継続していくべきであると強く感じたところだ。
そして、ツーリズムEXPOジャパンの会場を歩き回り、カンファレンスに参加してみて中部圏のさらなる観光振興における潜在性と課題の両面を垣間見ることができたと思っている。
潜在性については、開催地のある愛知県をはじめとして中部・北陸各県には食、自然、そして歴史・文化など多彩な体験ができること。そして、訪れるたびに新たな体験をできる土壌があるという点を挙げておきたい。
今回のツーリズムEXPOジャパンは中部・北陸9県が初めての共同ブースを出展し、豊富な観光資源をアピールした。中部経済連合会の勝野哲会長は今回の共同ブース出展を「『点』から『線』の視点で観光の魅力を伝える出発点として位置付ける」とした。これが一過性のものに終わらせることなく継続性を持たせて展開していくことで、同地域の広域観光は一層活発化することになるのだろう。
また、イベントのホストタウンとなった愛知県について見ると、ツーリズムEXPOジャパンのスペシャル・サポーターを務めた俳優の瀬戸朝香さんが本紙に寄せたコメントにおいて「愛知県はグルメも豊富で街の中でも豊かな自然を感じさせてくれる」と話してくれていた。
実際会場では、従来知られていなかった観光コンテンツも数多く出展され、瀬戸さんの言葉を裏付けるような新たな魅力を体感する機会を得られたと感じたところだ。
ポテンシャルの高さと同時に、課題も浮かび上がってきた。とりわけ強調したいのが、観光分野に関しては中部圏は大都市圏と切り分けて考えるべきであるということだ。
政府は「三大都市圏」という枠組みで統計や分析を行うことが多い。観光においても、宿泊統計や訪日外国人旅行者数や消費動向について、三大都市圏と地方部と分けて扱い分析している。
三大都市圏の中には名古屋市を中核として愛知県、三重県、岐阜県が含まれることになるが、旅行者の流動状況など関東、関西圏とは異なる動きを見せているのが実情だ。今後の観光政策において、名古屋圏は三大都市圏と地方部との「ハイブリッド」で物事を捉える視点が必要なのではないだろうか。そうすることで、この地域が持つ潜在性をさらに引き出すことができるだろう。
もう1点強く思ったのが、首都圏、関西圏以上に地元経済界が一丸となって観光振興に取り組むことが求められるということだ。
中部圏は中京工業地帯を構成する「ものづくり」企業が軒を連ね、世界に冠たる一大産業圏を構成している。観光はサービス業ではあるが、中部圏の場合は「ものづくり」の企業群が観光を地域戦略の一環と捉え、積極的に関与することで、他地域にはない独自性を持った観光を打ち出すことが可能となるのではないだろうか。
日本の観光産業を「基幹産業」に成長しつつあるという声を耳にする機会が増えている。ただ、日本の基幹産業と言えば真っ先に挙がるのが依然として自動車産業だ。自動車を始めとする製造業の「おひざ元」である中部圏で国内外双方の旅行者が活発に流動するようになったとき、初めて日本の観光が真の基幹産業と位置付けられるのではないだろうか。それだけに中部圏の観光は日本が観光立国となるためのキャスティングボードを握っていると言っても過言ではない。(嶺井)