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2018.06.04

本業から周辺事業拡大へ

 旅行のOTA化、FIT化が旅行の主流となりつつある中で、LCCのシェア拡大がそれを一段と加速化させている。一方で、旅行業界の経営環境はOTAの台頭とともに確実に厳しい方向に向かっている。
 大手旅行会社の3月期決算を見ると、JTBは増収減益だが、前期比2%増の増収はグローバル事業の増加で、海外・国内旅行は微増にとどまる。減益の要因は先行投資による営業費用増だった。
 KNT-CTホールディングスは増収増益だが、売上高は2%の微増、営業利益は7%増。阪急交通社は増収増益で、欧州回復で14%の増収、営業利益約3倍増と大手で唯一好決算だった。
 12月通期決算では、日本旅行は減収減益で、営業収益は微減、営業利益は38%減。海外・国内のパッケージツアーが伸び悩んだ。東武トップツアーズは増収増益だが、個人旅行は海外・国内ともに減収。名鉄観光サービスは増収増益だが、海外旅行が減収だった。
 上場した旅工房は増収だったが、販管費が膨らんで7割減という大きな減収となった。DeNAは旅行サービスを含むEC事業が16%の減収、77%減の大幅な減益となり、エボラブルアジアへDeNAトラベルの売却を決めた。
 電鉄系の旅行会社は低迷しており、京急電鉄は子会社の旅行会社、京急観光を日本旅行に事業譲渡した。
 こうした状況を見ると、旅行のOTA化はもはや止めようがない。目的地の旅行環境が良くなればなるほどOTA化が進行する。パッケージツアーからFITへの流れはこれからもさらに進んでいくだろう。
 2年前にJTBの高橋社長は海外旅行のOTA化によるリアルエージェントの環境の厳しさを指摘。その対応として、今年から「ダイナミックJTB」を打ち出した。2018年3月期の決算会見で、高橋社長は2022年度を「第三の創業期」と位置づけ、「営業利益200億円」の経営体制をめざすとした。そのために、「従来型の旅行事業を始めとしたコミッションで半分、残る半分を課題解決型のソリューション型ビジネスの対価で獲得する」考えを示した。
 旅行事業をコミッションビジネスからフィービジネスに変えていくということではなく、従来の旅行事業のコミッションビジネス、いうなれば「本業」だが、これを半分程度、多角的に展開しているソリューションビジネスの新領域をもう一方の柱に据えると解釈したほうが良さそうだ。
 その中核となるのは、法人事業、地域交流事業、グローバル事業などで、旅行を取り巻く新たな領域でソリューションビジネスを展開するということだろうか。
 一方で、HISは4月中間期と10月通期業績予想を下方修正した。中間期売上高を前回予想から100億円減の3400億円、中間純利益を28億円減の29億円に下方修正。営業利益は7億円減の70億円、経常利益は17億円減の70億円を予想した。
 中間期の下方修正に伴い、通期売上高は前回予想から150億円減の7200億円、営業利益は7億円減の173億円、経常利益は25億円減の175億円、最終純利益も27億円減の91億円と予想した。
 蒲郡ラグーナテンボスの入場者減、アジア・アトランティック・エアラインズの債権放棄、オーストラリアのウォーターマークホテル2軒売却と、HISの旅行業を取り巻く環境は厳しさを増している。この先、OTA化がさらに進行すれば、HISの「脱旅行」への道は加速度を増すかもしれない。
 そのOTAも淘汰が始まっている。外資資本のエクスペディア、ブッキングドットコム、国内資本の楽天、じゃらんがしのぎを削る中、中堅どころの環境は厳しさを増している。DeNAトラベルの売却はその象徴かもしれない。
 最近の大手旅行会社の経営戦略を見ると、もはやビジネスモデルの転換というよりも、本業を維持しつつ、周辺事業の拡大、新規事業の開拓、事業の多角化など「新たな事業領域の展開」を模索しているようだ。OTA化の中で、事業規模を維持、成長するには、それしか道はないということか。(石原)