記事検索はこちらで→
2020.12.07

Go To見直しで明確な基準を

 新型コロナウイルスの感染者が再拡大していることで、地上波は連日トップでこれを報道する。政府は感染防止対策の徹底と経済社会活動の両立を図るため、Go Toトラベル事業をそのままで乗り切ろうとしたが、新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言と北海道、大阪の知事の陽性を受けて、札幌市と大阪市着の旅行をGo Toトラベルから3週間暫定で対象外にした。
 しかし、分科会の札幌市と大阪市発の旅行も除外すべきとの意見と報道、それに反応する世間の声に押されて、両市発の旅行もGo Toトラベル事業の対象から外した。
 次は東京都だ。東京が危ないの大合唱の中で、小池百合子都知事は菅義偉首相と12月1日に首相官邸で会談し、東京発着のGo Toトラベル事業について、都内居住の65歳以上の高齢者、糖尿病などの基礎疾患を持つ人を対象に、12月17日まで利用の自粛を要請することで合意した。
 小池知事は会見でGo Toトラベルの「自粛」ではなく「停止」を求めたが、政府側との協議で、自粛を要請することで合意したことを明らかにした。政府と合意したあとで、こうしたパフォーマンスはフェアではない。言わないことがルールではないか。これで、万が一にも東京や東京都民による地方への感染が拡大したら政府の責任とする免罪符を手にしたと思われても仕方がない。
 菅首相は囲み会見で、「小池都知事からGo Toトラベルについて、65歳を超える高齢者の方々、基礎疾患を持つ方々の利用の自粛を呼び掛けたいとした要請があった。私からは東京都の対応として理解できると話し、そのうえで、東京都としっかりと連携して、感染拡大を何としても阻止するということで一致した」と述べ、質問には一切答えずにその場を立ち去った。
 西村康稔経済財政・再生担当大臣は、都内の65歳以上の高齢者、基礎疾患を持つ利用者がGo Toトラベル対象の旅行をキャンセルした場合、キャンセル料が発生しないようにするとともに、事業者に対してもキャンセル分を補填をする方針を示した。
 7月22日からスタートしたGo Toトラベル事業で、特定地域ではなく、年齢、既往症などに対象を限定して自粛を求めたのは今回が初めて。
 とくに、対象を高齢者などに限定したことで、西村大臣はキャンセル対応などは「観光庁が制度設計する」と説明。観光庁とGo Toトラベル事務局は、さらに煩雑な業務を強いられることになり、旅行業者、宿泊業者もその対応に追われる。なぜ、こんなことになるのか。
 観光庁が発表した国内旅行宿泊統計を見ると、Go Toトラベル事業に東京が加わった10月の日本人国内旅行宿泊者は、前年同月比17.2%減の3296万泊まで回復した。9月が36.2%減の3324万人泊だから、一挙に19ポイント上昇したことになる。11月はさらに上昇することが見込まれている。
 10月の旅行会社の国内旅行取扱額、宿泊施設の客室稼働率を見ても、Go Toトラベル事業における東京発着の存在がいかに大きいか分かる。Go Toトラベルのおかげで、900万人の観光事業者は一息つけたことは間違いない。
 したがって、感染拡大防止と経済社会活動を両立する上で、Go Toトラベル事業、その中でも東京発着がキーとなり、対象を限定してGo Toトラベルの東京を継続することは理解できる。
 しかし、感染再拡大によるGo Toトラベル事業の見直しは、妥協の産物のようであり、その場、その場で観光庁や事業者が対応に追われていては疲弊してしまう。
 例えば、諸外国では65歳以上の高齢者と20歳以下の若者を外出禁止にしている国もある。「移される高齢者」に自粛を求めるなら、「移す若者」はどうするのか。
 重症患者の増加を防ぐために、こうした限定措置が全国的に広がると、Go Toトラベル事業がさらに複雑化し、混乱に輪をかけることが懸念される。Go Toトラベル事業の見直しに対する基準をはっきりと決めることが必要だ。(石原)