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2019.01.07

創刊50年「再び、拡大均衡への道」

 週刊ウイングトラベルが創刊して、今年で50周年を迎える。そこで、2019年の新年に当たり、新春第1号の本号を「ウイングトラベル創刊50周年記念号」として発行する。ウイングトラベルが創刊50周年を迎えることできるのは、旅行会社・ツアーオペレーター・政府観光局・航空会社・ホテル・観光施設・システム関連など、ツーリズム産業界に携わる全ての方々のご支援の賜であり、改めて感謝申し上げる。
 航空新聞社の創立は1958年(昭和33年)1月、航空宇宙専門紙「WING」の創刊は同年4月だった。それから11年後の1969年(昭和44年)5月に、WINGの姉妹紙として「ウイングトラベル」が創刊した。
 ウイングトラベルは当初、WINGの海外旅行版としての別冊だった。その当時は「WING第2部」と名乗っていた。それが、海外旅行ブームに乗って、WINGを凌駕するほどの収益を上げて独立に至る。
 ウイングトラベルを創刊したのは、航空新聞社の社長、会長を務めた福田輝夫氏。ご存知の方もおられるが、アサヒトラベルインターナショナル会長の福田叙久氏の父君である。
 先見の明が合った福田輝夫氏は、戦後の航空産業界の再建がなかなか進まない状況にあって、1964年の海外旅行の自由化にいち早く着目し、「WING第2部」として海外旅行特集を主導し、その後のウイングトラベルの独立、創刊を果たした立役者だ。
 航空新聞社は1980年に経営体制が代わり、福田輝夫氏も会長職を退き、航空新聞社を去られた。私事で恐縮だが、1980年に入社した私は、福田氏に採用された最後の社員だった。当時はWINGに所属していたが、福田氏が会長を辞す時に個別に呼ばれ、「ウイングトラベルを頼む」と言われたことを今も忘れない。とりあえず、創刊50周年を迎えることはご報告しておきたい。
 ウイングトラベル創刊号(昭和44年5月7日発行)の巻頭に「今日と明日」というコラムが掲載された。創刊号の見出しは「拡大均衡への道」である。全文を引用しよう。
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 運輸省の発表によると、昭和43年(1968年)の日本人海外旅行者数は、初めて来日外国人の数を上回り、57万5000人に達した。対前年比25%増という数字は、わが国のトラベル・インダストリーの、不断の市場開発の努力の成果として高く評価される。
 この4月からは、持ち出し外貨の制限額も700ドルになり、また、近く旅券法が改正されて、渡航手続きも簡素化されるなどの好材料もあり、昭和44年の数字はさらに画期的なものとなろう。
 しかし、忘れてならないのは、その結果、旅行収支の赤字が増え、一方的に海外旅行を煽り立てる旅行産業に対する風当たりがますます強くなるということである。われわれが国内の主要なインダストリーとして健全な成長を遂げるためには、こうした国内世論の支持を失ってはなるまい。
 そのためには、アウトを絞って均衡をつくり出すのではなく、インを伸ばして拡大均衡を図ることが望まれる。
 ところで、インバウンドのビジネスは一般にアウトに比べて収益率が低く、そのためにインに力を入れている代理店の数も少ない。この点、長期的視野に立った代理店各位のご努力をお願いするとともに、ホテルその他の観光施設の充実と、空港、道路その他の整備など産業界全体ないし政府に対し協力を要望したい。
 また、海外におけるさらに積極的な観光誘致とPR活動を図るため、JNTO、外務省、航空会社などが一致して、近代的なマーケティング・ミックスの方法を駆使し、需要喚起のためのキャンペーンの実施を望みたい。
 旅行産業は、貿易外収支の項目の中で最も重要な地位にある。これを発展され、旅行収支の拡大均衡を図るためには、官民一体となった努力が必要なのである」
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 まさしく、50年を経て「隔世の感」がする創刊コラムである。アウトとインをそっくり入れ替えれば、今日の旅行業界が置かれた現実に直面する。
 当時は、アウトバウンドの成長に乗って、旅行業界もウイングトラベルも時流に乗って成長しているはずだが、その創刊号で、アウトバウンドの成長に浮つく旅行業界を戒めるとともに、インバウンド・ビジネスへの参入と旅行収支の拡大均衡を訴えている。この姿勢がウイングトラベルの存在理由であろう。
 今年の新年インタビューでJTBの髙橋広行社長は、JTBのダイナミック・パッケージである「ダイナミックJTB」の強化と欧州観光周遊バス「ランドクルーズ」の発売を強調し、この50年を支えたパッケージ「ルックJTB」から「ダイナミックJTB」へ主力商品が移行することを明言した。また、ミキ・ツーリストもアジア・欧州で同様のバスを走らせる。
 日本の海外旅行を長く支えてきた定番パッケージツアーが、終わりを告げようとしている。
 OTAの台頭で、旅行業にも「プラットフォーム・ビジネス」が主役に躍り出ている。IT革新による流通業の宿命と言ってもいい。日本旅行の堀坂明弘社長も、2019年からの本格的なグローバル事業の参入を示唆している。
 そうした中で、旅行会社の強みである仕入力を生かした試みが、2019年の特徴となるかもしれない。女子旅だけではなく、バブル世代、ポスト団塊世代をターゲットする旅行商品の提供が今後のカギを握る。また、官民で取り組む若者のアウトバウンド促進への具体策も問われてくる。
 世界のインバウンドはアジアからの旅行者が中心である。アジアの成長が世界の観光業を支えている。そのおかげで、訪日インバウンドも急成長している。但し、アウトは日本を除くである。早くから経済成長を実現し、アジアナンバー1のアウトバウンド国だった日本は2000万人で足踏みしているうちに、アジア諸国にあっという間に追い付かれ、追い越され、3000万人を超えた韓国の後塵を拝している。
 いまや世界各国から旅行収支の「拡大不均衡」を指摘されている状況だ。日本もアジアの成長の波に乗り、アウトバウンドのギアを上げなくてはならない。インバウンドが4000万人なら2000万人、6000万人なら4000万人のアウトバウンドは達成したい。
 2019年からは国際的なイベントが目白押しである。平成から新たな年号に変わる。日本中が沸き立つ年になる。インバウンドもアウトバウンドも「黄金の果実」が目の前にある。旅行業界がそれを刈り取るプレイヤーになれるか。2019年は「拡大均衡」へ、旅行業の力量が問われる「試金石」となりそうだ。(本紙編集長・石原義郎)