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2021.06.15

ウイングトラベル

★観光復興へ観光地再生と体質強化が不可欠

 政府、2021年版の観光白書を閣議決定
 
 政府は6月15日、令和3年(2021年)版「観光白書」を閣議決定した。2020年は新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、各国・地域で水際対策が強化されたことで前年比87.1%減の412万人と大幅に減少した。また、出国日本人数については84.2%減の317万人となり過去最大の下げ幅を記録した。国内旅行は宿泊旅行の延べ人数が48.4%減の1億6070万人、日帰り旅行が51.8%減の1億3271万人となり、宿泊、日帰り旅行ともに大きく減少した。
 また、今回の白書では新型コロナウイルスが観光業にもたらした影響について整理し、政府や地方公共団体による対策を振り返るとともに、感染拡大によってもたらされた観光のトレンドの変化について多面的に分析した。さらに日本の観光の特性について、他の産業との比較も交えて分析。その上で新型コロナからの観光復興や2030年の訪日外国人旅行者6000万人の政府目標実現に向けた観光業の体質強化や観光地の再生に向けた取り組みについて重点的に掲載した。

 

※写真=令和3年版の観光白書では、新型コロナからの観光復興に向け観光地再生と観光産業の体質強化が不可欠であると指摘した

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 新型コロナで世界の観光損失額は1.3兆円に

 リーマンショックの11倍、6200万人の雇用喪失

 

 日本の観光動向の分析に先駆けて白書では国連世界観光機関(UNWTO)や世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)がまとめた世界の観光動向を紹介した。それによると2020年の国際観光客は前年比73.1%減の3億9400万人となった。新型コロナウイルス防止のための渡航制限などにより、大きく減少する格好となった。また、国際観光客の減少に伴う観光市場の損失額は1兆3000億ドル(約139兆円)となった。これはリーマンショックで需要が落ち込んだ2009年に記録した損失額の11倍に相当し、過去最高の下落となった。また、旅行・観光業が世界のGDPに占めるシェアは2019年の10.4%から5.5%と半減となった。また、観光関連産業の従事者数は3億3400万人から2億7200万人に減少。約6200万人の雇用が失われる形となった。
 ちなみに2019年の日本への訪日外国人旅行者数は3188万人、出国日本人数は2008万人となり、いずれも過去最高を記録したが、これを世界のランキングに照らし合わせると、外国人旅行者受入数は世界で12位、アジアで3位となった。前年に比べ順位を1つ落としたものの、11位のオーストリアとは2000人の差となっており、ほぼ前年と同様と地位を維持した格好となった。
 2019年の日本の国際観光収入は461億ドルとなったが、これは世界で7位、アジアで2位となり、前年の9位から2ランクアップした。
 一方、2019年の海外旅行者ランキングをみると日本(2008万人)は世界で14位、アジアで4位となった。前年は世界18位であったことから4ランクアップする形となった。

 

 事業継続や資金繰り支援、8割以上が活用

 国内宿泊旅行の66.5%がGo Toトラベルを利用

 

 テーマ章となっている第2部は「新型コロナウイルス感染症を踏まえた観光の新たな展開」と題して、前半では新型コロナウイルスが観光業にもたらした影響を整理した。後半では改めて日本の観光の特性と関連産業の課題を明らかにした上で観光業の体質強化、観光地の再生に向けた取り組みについて事業者や地域、DMOの取り組みを交えながら紹介した。
新型コロナウイルスの感染拡大はすべての産業に影響をもたらしたが、特に非製造業の落ち込みが顕著となったことが特徴の1つであるといえる。
 このうち旅行業については昨年4月5月は取り扱いがほぼゼロに近い状況まで落ち込んだ。その後昨年後半にかけては持ち直しを見せたが、再度の緊急事態宣言の発出を受けて、大きく落ち込み、足元では2015年の約6割の水準となっている。海外旅行、外国人旅行については弱い動きが続いている。
 宿泊業については、昨年4、5月を底に11月にかけて持ち直しを見せたが、12月以降は弱い動きが続いている。特に旅館は足元で2015年の約4割の水準となっている。
 また、雇用を取り巻く環境も深刻となっている。宿泊業では2020年の雇用者数が19年に比べて約12%減となる約52万人となった。このうち正規雇用者数は約8%減の約24万人、非正規雇用者数は約15%減の約28万人となるなど、新型コロナウイルスによって多くの雇用が失われる結果となった。
 観光産業に深刻な影響が出ていることを受け政府や地方公共団体は事業継続や雇用維持に向けたさまざまな支援策を講じた。売上減少に伴い資金繰りが厳しい事業者に対しては実質無利子・無担保の融資や持続化給付金の交付、租税公課などの支払い猶予などを実施するとともに
従業員の雇用を維持する事業者に対しては、雇用調整助成金による休業手当などの助成や在籍型出向による雇用の維持に対する産業雇用安定助成金などの助成を行っている。
 国土交通省の調査によると、宿泊業・旅行業とも8割以上の企業が一連の助成策を活用している状況となっている。
 事業継続や雇用維持に対する支援と併行して、国内旅行需要を喚起するための取り組みとして昨年7月からは「Go Toトラベル事業」を推進した。
 さらに旅行・宿泊など各関係団体は顧客と従業員の感染予防を図るほか、事業活動で講ずるべき感染予防策についてガイドラインを策定した。さらに交通機関、宿泊・観光施設などの業界団体で構成される旅行連絡会は旅行者視点での旅行時における感染拡大防止のための基本的な留意事項をまとめた「新しい旅のエチケット」を取りまとめ、消費者にも感染防止対策の徹底を呼び掛けた。
 Go toトラベル事業は昨年7月に開始。その後10月からは対象外としていた東京都発着の旅行を対象に加えるとともに地域共通クーポンの運用を開始した。しかし、新型コロナウイルスの感染再拡大を受け昨年末から運用を停止。現在も停止中となっている。
 なお、昨年7月22日から12月28日までのGo toトラベルの利用人泊数は少なくとも約8781万人泊、支援額は少なくとも約5399億円となった。また、7〜12月に観光・レクリエーション目的で国内宿泊旅行を行った人のうち66.5%がGo Toトラベル事業を利用した。
 同事業を利用した宿泊旅行の平均泊数は約1.35泊、1泊あたりの利用価格については「5000円以上、1万円未満」の利用者が最も多く、比較的低価格帯の利用が中心となっている。地域共通クーポンの都道府県別の利用状況をみると最も利用額が多かったのが東京都で69.6億円、以下北海道、沖縄県、京都府、静岡県と続いた。

 

 滞在型旅行やオンラインツアーなど新たな動き

 ワーケーションや分散型旅行の普及促進も 

 

 新型コロナウイルスの影響は観光のトレンド変化を生み出している。国内旅行においてはいわゆる「マイクロツーリズム」と呼ばれる近隣地域内での観光の割合が増加した。2020年7〜12月の旅行形態を見ると、県内宿泊旅行者は19年の同時期に比べて7.0ポイント増となる31.8%に増加した。宿泊数については1泊が58.0%から12.4ポイント増となる70.4%となった。同行者については夫婦・パートナーの割合が増加する一方、友人の割合が減少した。
 また、コロナ前から「コト消費」に関する旅行に注目が集まっていたが、コロナ禍において3密回避が求められる状況下で、コト消費関連の観光の1つとしてキャンプなどのアウトドアへの需要が高まっている。そうした中で施設の整備やコンテンツの造成を組み合わせ、高い消費単価を実現しているキャンプ場も出てきている。
 また、コロナの状況下でテレワークが普及するなど働き方も変化が見られている。この動きにあわせてワーケーションやブレジャーに関する意識も高まりつつある。特に20〜30歳代においては、ワーケーションの実施希望が高いとしている。そうした中で観光庁は働き方改革と合致した新たな旅のスタイルとして、企業や地域などと連携しながら、より多くの旅行機会の創出と旅行需要の平準化に向けて普及を促進している。
 このほか、3密回避の観点から1つの地域に滞在し、文化や暮らしを体感しじっくり楽しむ滞在型旅行にも注目が集まっている。さらに感染リスクを低減させるWithコロナ時代における新たな旅のスタイルとして時間と場所を分散する「分散型旅行」について旅行会社や交通事業者と連携して促進していく。さらに、リアルでの訪問が難しくなる中でオンラインツアーも普及。訪問意欲の向上に加え、地域物産品の販売促進につながる動きとして注目が集まっている。
 修学旅行も新型コロナの影響を受け、中止や
変更が相次いだ。そうした中でも学生の見聞を広げる教育活動を実現するために、行先を県内など近場に変更するとともに、これまで修学旅行の受け入れを行っていなかった観光施設を新たな目的地として盛り込むなど新たな動きも登場した。
 国際観光の動向については、今年2月の段階で世界の32%にあたる69カ国・地域で依然として完全な国境閉鎖が行われており、34%の70カ国・地域では到着時におけるPCR検査等の提示を要件に上陸を認めている。一方でコロナによるすべて移動制限解除しているのは2%に相当する5カ国・地域にとどまっている。
 今後はワクチンの普及などにより、国際観光客数の回復が見込まれる。国際航空運送協会(IATA)は世界の航空旅客輸送は2021年は19年比の52%、22年は88%の水準まで段階的に回復すると予測されている。
 一方で、コロナ後の海外旅行先として昨年12月のシンクタンクの調査によるとアジアは89%、欧米豪は81%となり、アジアへの旅行意向は高まっている。その中でも日本は高い評価を受けている。そうした中で新型コロナ収束後の訪日旅行に求められる点として衛生面における配慮やウイルス対策全般の取り組みの継続が期待されていることを挙げた。

 

 滞在環境の上質化実現などで収益性改善へ

 生産性向上や新コンテンツ造成へDX活用促進

 

 テーマ章の後半では日本における観光の課題について紹介した。需要面では1泊または2泊の旅行が全体の8割を占めるなど宿泊日数の短さがあげられるほか、季節できには5月や8月など長期休暇期への偏りが顕著となっている。また、宿泊業においては労働生産性の低さが課題となっており、労働装備率は他のサービスに比べて高い水準にある一方で、設備投資比率は低く、生産設備が効率的に活用されず、付加価値の向上につながっていないと考えられる。
 これらの課題を踏まえて、白書では観光地の体質強化や観光地の再生に向けた取り組みについて紹介した。現在の旅行トレンドは従来の団体客中心から個人旅行志向が高まるなどといって変化が見られる中で、大規模施設への設備投資に伴う経営負担や顧客ニーズをとらえた経営へと変化が求められている。特にコロナの状況下で悪化した収益性を改善すべく観光業の体質強化が不可欠であると指摘。そうしたことから、宿泊施設の改修による滞在環境の上質化や経営の改善。さらに廃屋の撤去や泊食分離を始めとした観光地の面的再生、収益の多角化などの支援を推進していくとした。
 また、業務管理や接客、移動、コンテンツ、マーケティング、プロモーションなどさまざまな場面でIT化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入による省力化や新たなビジネス展開等の実現が不可欠であるとした。これにより、収益力の向上と旅行者の利便性向上などを実現することが可能であると指摘した。
 さらにコロナ禍においては観光地における感染防止策はもちろんのこと、需要の変化を踏まえた新たな観光コンテンツの創出が重要であるとし、観光庁では新たな体験コンテンツの造成に取り組む地域を支援していく。
 また、DMOにおける感染症対策に関するガイドラインや認証制度の策定やコロナ収束後を見据えた着地整備の充実に向けた取り組みも今後は重要視されてくると指摘した。
 また、観光の魅力をより一層高めていく上では、各地域が多様なステークホルダー間の合意形成を進めながら、長期的な視点に立って持続可能な観光(サステナブルツーリズム)を実現していく必要があると指摘。観光庁が持続可能な観光地マネジメントや温室効果ガス排出量管理などの指標も含めた観光ガイドラインを開発。これの普及促進を図るため、モデル地域を選定し、トレーニングプログラムの実施や有識者の派遣などを通じて持続可能な観光への取り組みを支援したことが紹介されている。