ウイングトラベル特集
【潮流】回復の先に見据える「飛躍」

夏休み、そしてお盆休みを迎え、各地のターミナル駅や空港では、国内各地および海外へ向かう家族連れや訪日外国人旅行者で賑わいを見せている。お盆休み期間中における各交通機関の利用動向については次号で紹介する予定だが、肌感覚では例年並みの活況が戻っていたのではないかと見ている。
「回復率」という言葉を使い始めて久しい。コロナ禍前に活況を呈していたデスティネーションや観光施設、宿泊施設の中には、コロナ禍を完全に払拭したかのような動きを見せているケースもある。一方で、なお回復途上にあるマーケットも少なくないのが実情だ。
そうした回復途上の一つが中国マーケットである。訪日インバウンドについては、人数・消費額ともに回復傾向にあるものの、依然としてコロナ禍前の水準には達していない。それ以上に戻りが鈍いのが、日本から中国への訪問客数だ。
JATAアウトバウンド促進協議会の大森賢一中国ワーキンググループ座長によれば、今年上半期における主要旅行会社9社の中国旅行取扱人数は、2018年比20.5%の回復率にとどまっており、とりわけレジャー需要の戻りが弱いという。
昨年11月末には観光目的の中国ビザ免除措置が再開され、渡航ハードルは下がったはずだが、現時点ではビザ緩和の効果は顕在化していない。
そこでJOTCは中国駐東京観光代表処と共同で、11月に「西安城壁ウォーキングイベント」を企画。現時点でJATA会員会社10社が旅行商品を造成し募集を開始、250人の送客を目標に旅行商品の拡充とプロモーション強化を図る方針だ。
JOTCによる各国・地域観光局との共同プロジェクトは、これまで韓国・台湾・香港で実施され、いずれも一定の成果を挙げてきた。中国市場についても同様の成果につながることを期待したい。
マーケットの活性化という視点で見ると、米国プリンセス・クルーズのガス・アントーチャ社長による「2027年はわれわれにとって凱旋の年となる」という言葉も印象的だった。
プリンセス・クルーズは2027年の日本発着クルーズに、新たに「サファイア・プリンセス」を投入し、既存の「ダイヤモンド・プリンセス」と併せて2隻体制で運航する予定だ。
日本をはじめとするアジアのクルーズ市場は「ブルーオーシャン」としての注目を集めてきた。プリンセス・クルーズは他社に先駆けて日本発着クルーズに参入し、日本人の嗜好に合わせた船を日本の造船所で建造するという「ジャパン・ファースト」の姿勢で投資を続けてきた。2023年にはコロナ禍で停止していた日本発着クルーズを再開。そこから5年となる2027年に2隻体制で「凱旋」し、日本市場の再飛躍を図ろうとしている。
日本人による中国旅行の回復、そしてプリンセス・クルーズのさらなる成長。これらの鍵となるのは、「先入観の払拭」ではないだろうか。
中国については、現地情勢に関するさまざまな情報が飛び交い、イメージ先行となって需要を押し下げている面がある。
プリンセス・クルーズについても、「ダイヤモンド・プリンセス」という船名を聞いた際に、過去の出来事を想起する人も少なくないだろう。
しかし中国は、世界最多となる60件の世界遺産を擁する観光大国であり、AIなど最先端技術の発展も著しい。歴史と革新を同時に体感できる魅力を持つ。
一方、クルーズ業界は、観光関連業種の中で感染症対策に最も注力してきた一つである。無論プリンセス・クルーズも厳しい自主基準を設けて徹底してきた船社である。
そうした現実をいかに一般消費者に伝え、需要を喚起するか。旅行会社がその役割を担えるかどうかに注目したい。
言い換えれば、中国アウトバウンド市場の再活性化と日本発着クルーズの拡大という2つのテーマは、旅行会社が存在感を示す絶好の機会となろう。
2030年に日中韓3カ国の交流人口4000万人、日本人クルーズ人口100万人を目指すという目標が掲げられている。それが現実となるかどうか。また、コロナ禍を経て改めて問われている旅行会社の存在価値を、市場活性化というかたちで証明できるか。まさに腕の見せ所だ。(嶺井)