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2023.06.16

WING

SUBARU、量産進むUH-2、新整備建屋建設へ

 成長向け放つ第3の矢、ヘリコプター事業

 

 SUBARU航空宇宙カンパニーが「防衛事業」、「民間事業」に続く3本目の矢として放った事業が、「ヘリコプター事業」だ。そのなかで目下、主力を担うことになるプログラムが、SUBARUが陸上自衛隊向けに開発した多用途ヘリコプター「UH-2」となる。

 

※写真=SUBARU航空宇宙カンパニーの第3の柱であるヘリコプター事業。UH-2が柱石を担う

 2015年9月、防衛省との間で新多用途ヘリコプター「UH-X」の開発プロジェクトを受注。2018年12月には試作機の飛行試験開始に漕ぎ付けた。その後、2019年2月末に試作機を納入することに成功し、昨年5月には量産初号機が初飛行、そして同年6月30日に量産初号機納入に至った。
 この「UH-2」は、民間市場向け「SUBARU BELL 412EPX」を共通プラットフォームとしており、そこに陸上自衛隊独自の装備を搭載。民間市場に対しては、パートナーであるベル社と市場を分けながら売り込みを図る。
 「UH-2」に関しては2019年度に防衛省との間で量産初度契約を締結。試作機を含み、累計27機分を受注済みだ。このうち昨年度には、「C-1契約として受注した全6機を陸上自衛隊に納入した」ことを明かしつつ、現在では「C-2およびC-3契約として、合計20機の契約を締結済み」にあるとした。
SUBARU航空宇宙カンパニーの齋藤義弘ヴァイスプレジデントは「今年度予算には13機分が計上されており、昨年末の防衛力整備計画では77機という大きな数字を明記した頂けたことは、我々にとって大変ありがたいことだ」として、現防衛力整備期間中に累計77機分の契約獲得が見えていることを歓迎した。
 この点について「当初、我々が想定していた前倒しにするかたちとなっており、それだけ機体に対する強いニーズがあると捉えている」とコメント。「当社としても、このニーズにしっかりと応えていかなければならない。あらためて気を引き締めているところだ」と話した。
 すでに宇都宮製作所のUH-2生産ラインは活況を呈しており、複数のUH-2量産機がラインに並ぶ。「現状、生産ラインを増強し、人材育成に取り組んでいる。SUBARUは、UH-2の開発、量産製造立上げを通じ、プログラム全体、モノづくりをすべて管理する能力、さらには顧客との交渉力など、あらゆる能力が培われる。」とし、「会社全体としてもコロナ禍で苦しんでいたなか、新たに3本目の柱としてヘリコプター事業に注力してきたが、この戦略がいよいよ数字となって具体的な柱の太さとなって表れてきた」と話すなど、コロナ禍で苦境にあるなかで尽力してきたヘリコプター事業であるUH-2事業がSUBARU航空宇宙カンパニーをさらに飛躍させていくことに言及した。
 現状自衛隊で運用しているヘリコプターの多くに、SUBARU製のヘリコプターが活躍している。とりわけ陸上自衛隊のヘリコプターならば、実に半数以上がSUBARU製という事になる。「もちろん、自衛隊で運用中の機体について、引き続き当社が責任を持ってサポートさせて頂く」ことにも言及した。
 今後、「UH-2」が続々と部隊へ配備され、IRANも段階的に行われていく。ヘリコプター整備を担っているのは宇都宮製作所南工場であるが、SUBARUはこの南工場へ整備場を新たに建設することを決めた。これにより、自衛隊向けヘリコプターはもちろん、民間向けの機体についても整備能力を強化する狙いだ。
 この新たな建屋については「UH-2のIRANが本格化するまでには整備する」としており、今後数年のうちに建設することになりそうだ。
 齋藤ヴァイスプレジデントは「実はこれまでも自衛隊機のIRAN、PAR、そして民間のヘリコプターの維持・整備を含めると、年間100機以上のレベルのデリバリーを実施してきた」ことに言及。「およそ2日に一度は、国内のお客様に機体をデリバリーしている計算だ。そこにUH-2の新造機が加わることになる。そのため完成機エリアの能力を引き上げることを決めた」ことを明かした。

 

製造・販売からサービス事業も     
 訓練センター設置でニーズ対応

 

 SUBARUはサービス事業にも力を入れる。具体的には顧客の訓練支援事業を拡大する計画で、「オペレーション支援、メンテナンストレーニング分野にも拡大する」ことを明かした。パートナーであるベル社との協力関係を活かす。
 齋藤ヴァイスプレジデントは「我々は3年前、民間ヘリコプターの販売に約20年ぶりに再参入した」ことを振り返りながら、「民間機市場は自衛隊のように大量に同一機種を保有する訳ではなく、1~2機という少数の機体を運用するケースが多い」ことに言及。「お客様のニーズに沿った運用サービスサポート基盤を確立していく」とした。
 「防衛省・自衛隊では、独自にシミュレーターを保有されるが、民間のお客様の場合、シミュレーターを含めて一気通貫で全ての設備を保有することのハードルは高い」との認識を示し、「だからこそ、機体メーカーである我々が、そうしたインフラを持たなければならない」と話し、独自に訓練センターを整備する考えにあることを明かした。「サービスまで含めた一貫した体制を確立することにより、安全な空に貢献していきたい」とした。

 

 UH-2の海外装備品移転に期待
 民間ヘリ市場、年率8%成長

 

 SUBARUは「UH-2」の海外装備移転にも期待を寄せる。今年3月に幕張メッセで開催された防衛装備品見本市「DSEI」においても、防衛装備庁が同機を展示したことで、諸外国の軍関係者からの引き合いが多数あったという。この取り組みが実現すれば、SUBARUにとって初の防衛装備品の輸出となるなど、さらに大きな力となっていくことは間違いない。
 また、「SUBARU BELL412EPX」が担う警察・消防・救急など公共用途が主体となる中型ヘリコプター市場の約50%は、SUBARUのパートナーであるベル社が握っているのだという。当然、機体更新や市場の成長需要が期待できるところであり、SUBARUとしても「2030年までのアジアのヘリコプター市場は、年率8%程度の成長があることを見込んでいる」として、ヘリコプター市場の高い成長率に伴う同事業の拡大に期待を寄せた。

※写真=新たな整備建屋の建設にも踏み込む(提供:陸上自衛隊)