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傷ついても飛行中に自ら傷を治す材料とは!?
ヒントは我々の体内に、ヒトの自然治癒力を航空機に活かす
旅客を乗せた日常のオペレーション中に自ら傷を修復することができる、すなわち自己治癒能力を有する材料。そんな夢のような材料を航空機エンジンに適用することに向けて、日夜、研究開発が進んでいる。その材料とはセラミックスだ。自分で傷を修復することができる能力を材料に付与するヒントは、我々にとって最も身近な存在、つまり我々の体の中にこそあった。物質・材料研究機構(NIMS)超耐熱材料グループ主任研究員の長田俊郎氏は、その着想のヒントは「我々の体の中の緻密骨」であったことを明かした。
セラミックスは高強度で軽量ながら、一方で脆い、割れやすいという問題を抱えている。高強度で軽量でありながら、脆い材料として、ピンと来るものの一つは骨だ。しかしながら骨は「脆い材料であるにも関わらず、高い信頼性を有していて、長い寿命を有している」。これは高信頼性・長寿命性といった特性は、「他ならぬ自己治癒、とくに炎症期、改変期、修復期という3つの過程を有した自己治癒機能により、強度を完全に回復することができるからだ」と説明する。
「とくに大きな特徴は、骨のどこかに損傷が発生したとしても、損傷箇所のみ修復するという局所性があるということだ。これは血液や様々な細胞を動員した、動く層を介した化学反応で、一度治癒すれば、その反応を停止する、つまり一時的であるという特徴をもって、損傷と付き合っている」という。
CO2排出抑制はセラミックスが糸口
世界のタービンブレードをセラミックスに
長田氏らNIMSの研究グループでは、これまでも航空機向けの材料開発に携わってきた。最近では787型機に使用されているニッケル超合金の開発も担うなど、航空機分野に対する貢献は大きい。
長田氏は「航空機市場は年間5%で成長する市場。それに伴い私が計算したところ、航空機が排出するCO2の排出量も莫大なものとなってしまう。例えば、このまま改善されなければ、2050年には全世界で42億トンものCO2を航空機が排出することになる」とし、「これは米国一国分の排出量で、日本が排出するCO2の実に3.8倍ものCO2が世界中の航空機から排出されることになってしまう」と危惧する。
もちろん、世界の航空機産業、航空輸送業界はCO2排出量増加という課題に対して、ただ指を加えて見ているだけではなく、国際民間航空機関(ICAO)を中心に、自ら厳しいルールを課し環境規制を強化している。
こうしたなかで「NIMSができることとして、ジェットエンジンのタービンブレードのところをすべてセラミックスに変えることができないか」というチャレンジに乗り出した。
なぜ、セラミックスなのかーーー。「セラミックスに変えることができれば、耐熱性が向上することのほか、エンジンの無冷却化で、燃費をだいたい15%程度改善することができる試算だ」と、長田氏は話す。これを「CO2排出量に換算すると、年間6億トンを削減することが可能となり、燃料費に換算すると、年間34兆円という数字が弾き出される」と、セラミックス材料を適用することの大きな効果を説明した。
※画像=発生した亀裂が”完治”する様子の顕微鏡画像(提供:NIMS)
※画像=自己治癒するセラミックスの発見はかなり以前のことだが、そのメカニズムは明らかになっていなかった。今回、骨の再生メカニズムと同様のプロセスを辿ることが明らかになった(提供:NIMS)
※画像=高速自己治癒セラミックスの1000℃環境における治癒時間(提供:NIMS)
※画像=骨の体液ネットワークをヒントに治癒力を高めるアプローチも(提供:NIMS)