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2023.02.22

ウイングトラベル

★量から質へ転換、ドイツとタイの事例を紹介

 観光庁「持続可能な観光推進モデル事業」ウェビナー

 

 観光庁は「持続可能な観光推進モデル事業」による第2回目のウェビナーをこのほど開催した。「訪日インバウンド再開。ドイツ、タイから持続可能な観光の具体的な施策を学ぶ」をテーマに、第1回目の米ハワイ州とカナダに続き、海外事例としてドイツとタイの事例を紹介。観光プロモーションに限らず、観光局の活動や事業運営自体にもSDGs(持続可能な開発目標)の達成や環境に配慮したイベントの開催、カーボンオフセットといったサステナブルな活動が求められているドイツ、またエコツーリズムから発展し、質の高い旅行者を誘致することで地元経済の活性化や地域文化の保護、生活の向上を目指す「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」を標榜するタイの事例から日本国内における持続可能な観光推進のヒントを提案した。また、パネルディスカッションでは、観光ビジョンのシフトや持続可能な観光実現への課題、また質の高い「ワン・アンド・オンリー」な観光素材をいかに造り上げていくか、また持続可能な観光を推進するための人材育成の重要性についての話題が上がった。

 

 ドイツ、オーバーツーリズムを回避する特性
 観光局が持続可能な取り組みを実践

 

 ドイツ観光局のプレゼンテーションでは、アジア地区統括局長・日本支局長の西山晃氏が旅行トレンド、サスティナビリティに対する観光局の使命、それに基づいた事業展開やプロモーション活動について紹介。
 西山氏はドイツの特性について、徹底した地方分権で一極集中が起きなかった歴史的経緯、地域色が豊かで文化的多様性がある点、周遊旅行に最適な観光特性がある点を挙げ「オーバーツーリズムを回避しやすい地域特性がある」と指摘。「ドイツは早くから自治体間の広域連携が非常に盛ん。ロマンチック街道など、観光マーケティングにおいて成功しているので、一都市に人が集中しない特性がもともと強みとしてあった。サスティナビリティの観点からすると非常にポジティブな傾向、特性を持っている」とした。
 一方、2021年の政権交代を経て、観光局が助成を受けるドイツ連邦経済エネルギー省が経済気候保護省へと名称を変更、気候保護の姿勢を明確に打ち出した。これにより観光政策においても、経済気候保護省が掲げる気候保護目標(2045年までのカーボンニュートラル実現、2030年までの再生可能エネルギー割合80%達成、地球温暖化を抑えるための「1.5度目標」)の反映が求められるようになった。
 こうした方針を受け、2022年からは、ドイツ観光局のすべてのマーケティング活動において、SDGs達成に貢献していることを根拠に計画実行することが定められた。日本支局においてもペーパーレス/デジタル化、イベントの「グリーンイベント」化が進む。さらに観光局のスタッフやFAMトリップにおいてドイツ国内を移動する際は、飛行機の利用を禁止、鉄道利用が義務化されたほか、外国からドイツへ入国する際のカーボンオフセットも義務化するなど、サスティナブルな取り組みが求められている。
 観光プロモーションにおいては、2021年から「Feel Good」キャンペーンを展開。「混雑を避けて田舎を訪ねる」「より長く、ゆったり滞在してもらう」「環境認証を取得した宿泊施設やレストラン、デスティネーションの紹介」「環境にやさしい交通機関(鉄道)の利用」「地元の人との交流」「地元の料理や季節の食材を味わう」などを骨子に、サスティナブルやアフターコロナの旅行を意識した内容となっている。
 日本市場においては、日本人になじみやすい「地産地消」を強調した展開を進める。西山氏は「地産地消は、日本人に一番分かりやすいコンテンツ。サステナブルを意識しなくても、日本人は既に実践している典型的なもの」と指摘する。

 

 タイ、バンコク一極集中、他地域誘導に注力
 観光局が活動支援、グリーンツーリズム訴求

 

 タイのプレゼンテーションでは、タイ国政府観光庁(TAT)東京事務所マーケティングマネージャーの藤村喜章氏がマーケット概況やタイが持つ特性について紹介。また持続可能な取り組みとして、エコツーリズム、さらにエコツーリズムの発展形として「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」について触れた。
 タイの特性として、藤村氏はバンコクへの一極集中を挙げ「フライトがバンコクしか飛んでいなく、どうしてもバンコクに集中する」と説明。「タイには77の都県があり、北部は山岳地帯、東部は高原地帯、南部は海が魅力。バンコクからどうやってほかの地域に誘導するか、皆さんに自然を感じてもらいたい」とのことで、バンコク以外へのプロモーションに注力する。
 エコツーリズムについては「タイ・エコツーリズム・アンド・アドベンチャー・トラベル・アソシエーション(TEAT)」が主体となり、TATと協力してコンテンツを開発。藤村氏は「ガイドがちゃんと案内できるか、移動手段があるか、細かいところもチェックしながら商品化を進めている」と説明した。
 TATでは、TEATAの活動をもっと世界に広めるために「Go Responsible Ecotourism and enjoy Thailand(GREET)」という小冊子を制作。また宿泊施設については、宿泊団体が認定制度「グリーンリーフ・サーティフィケーション」を設けている。
 さらに「環境にやさしい取り組み」を紹介すべく、ガイドライン「セブン・グリーン・コンセプト」を設定してわかりやすく伝える取り組みも行われている。藤村氏は「エコツーリズムでなく、グリーンツーリズムとして、皆さんに知ってもらう取り組みを行っている」と説明する。
 一方、TATはコミュニティ・ベースド・ツーリズムを研修プログラムに取り入れている。TAT東京事務所では、2022年3月にチェンマイで研修旅行を実施。伝統のファイヤーマッサージを観覧したり、マッサージ用のハーブでできたハーバルボールを製作したり、観光の素材として「地域の文化や伝統を守るための体験」を取り入れた。
 さらにTATはコロナ禍の2020年、国家経済戦略「BCG経済モデル」を基に、脱炭素観光(カーボンニュートラルツーリズム)を成長させ、持続可能な新しい観光を奨励する方針を打ち出す。BCGの「B」は生物多様性(Bio)、「C」は循環(Circular)、「G」はグリーン(Green)を指す。
 実際にいくつかの地域(コミュニティ)を指定。さまざまな体験を取り入れたファームステイのプログラムを開発し、誘致を図る。藤村氏は「タイではもともと故プミポン国王によって『足るを知る経済』が推奨されていた」と指摘。これがいわゆるタイにおけるSDGsのベースとなっているという。

 

 観光ビジョンの変化、持続可能な観光への課題
 高品質な旅行、人材育成についても議論

 

 パネルディスカッションでは、本紙の石原義郎編集統括がモデレーターとなり、コロナ禍を経て、量から質へ観光ビジョンがどう変化したか、また持続可能な観光実現へ向けた課題、高品質な旅行実現などについて意見を交わした。また人材育成、観光客を迎え入れる態勢をいかに造り上げていくかなど、ウェビナー視聴者への質問にも答えた。
 観光ビジョンの変化については、ドイツは政権交代で新政権が気候変動への取り組みを鮮明にしたことで観光局の活動もそれが前提となったことを指摘。西山氏は「量的なKPIから質的なKPIへシフトが行われている状態」と述べた。またタイも「BGC経済モデルの導入が持続可能な観光へのシフトを促した」(藤村氏)という。
 持続可能な観光実現へ向けた課題については、ドイツの西山氏が広域連携の重要性を強調。西山氏は「サスティナブルな観点で見ると、ドイツというデスティネーション自体が一極集中しない性質上、オーバーツーリズムを回避しながらやってきた」と説明。また観光客が集まるローテンブルクで旧市街への車の乗り入れを禁止した例を挙げ、観光と生活の両立の観点から規制が生まれた背景について触れた。
 一方、タイはバンコクに一極集中する傾向にあるが、藤村氏は「地方へ分散化するには航空路線が重要」との認識を示す。さらに「旅行会社と一緒に取り組みをしながら地方へ誘導させていくことが一番大切。旅行会社の取り組みの中で、どこまで我々が役立てられるかというのが課題。逆に旅行会社の方々にもう少し視野を広げてもらって、いろいろな取り組みをして欲しい」と述べ、旅行会社が果たす役割の重要性を挙げた。
 高品質な旅行実現へ向けた取り組みとしては、西山氏が単なる金額ではない、ここだけ、またはこの時期だけの貴重な体験「ワン・アンド・オンリー」の魅力訴求が必要との認識を示した一方、藤村氏は「目的が明確なコンテンツが重要」と指摘。例えばインターンシップなどは、「お金に関係なく、自分の意志で教養やスキルを高めたいという目的があれば、お客様は集まってくる」と説明した。
 また、持続可能な観光実現へ向けた人材育成については、ドイツもタイも観光業が主産業として確立されている点を指摘。両国共に観光業への人気は高く、教育環境が確立されている。さらにインターンの充実、例えば近隣の国へ出向いてマーケティング活動を行うなど、「田舎でも雇用機会が提供できている」(西山氏)点といった面もある。
 ただその一方で、給与が低い点が課題となっており、例えば「日本語学部の学生が卒業すると、日本語ガイドよりも企業の通訳を選んだりするケースがある」(藤村氏)とのことだ。
 最後にモデレーターの石原編集統括からは、「持続可能な観光実現へ向け、共通して言えるのが、ワン・アンド・オンリー、地域の魅力をどう伝えていくかが重要であるという点。またコロナ禍でより重要になっているのが、現場でのフレキシブルな対応。さらにこれからは人材育成も大変重要なテーマとなってくる」と述べ、議論を締めくくった。
 なお、第3回目のウェビナーは、2月24日(金)10〜12時の開催。「持続可能な観光、責任ある観光、そして再生型観光に対する今後の方向性とは。北海道ニセコ町、沖縄県、長野県松本市から持続可能な観光の具体的な施策を学ぶ」をテーマに、国内の取り組み事例を紹介する予定だ。なお、参加登録はウェブサイトまで。

※写真=パネルディスカッションの様子

 

※第3回ウェビナー参加申し込み

https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_peXIiKuzSw6rOB061k_4BA