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2018.06.18

WING

進化続ける新明和の搭乗橋、自動化も目前!

18年度中に一部自動化実現、10cm手前まで自動で

 

 新明和工業パーキングシステム事業部では、空港に設置する航空旅客搭乗橋を開発している。「パックスウェイ」ブランドで知られる新明和工業の搭乗橋は、国内外の空港に広く設置されており、一度は利用したことがある人も少なくないはずだ。2005年にはシンガポール・チャンギ空港にA380の二階建てに対応した搭乗橋を納入。2007年10月には、A380ローンチカスタマーのシンガポール航空のシドニー便が就航して、世界で初めて二階建て対応の搭乗橋が運用されるなど、キラリと光る技術が新明和工業の誇る搭乗橋「パックスウェイ」ブランドの特長だろう。
 本紙の取材に応じたパーキングシステム事業部システム本部空港施設部の中井義裕部長は、搭乗橋の将来について「国内外の空港で、搭乗橋を動かすための省人化が期待されるようになってきた」とコメント。「現状では搭乗橋を動かすためには、1ゲート当たり二本の搭乗橋として、最低でも一名ないし二名のスタッフ確保が必要」としながら、「とくに海外では搭乗橋の自動化が強く求められるようになってきている。遠隔監視室から、ボタン操作によって航空機に装着することができるようなシステムが求められている」と、搭乗橋の自動化を求める声が顕著になってきているとの認識を示した。
 そうしたなか新明和工業では、「既に搭乗橋自動化の開発に着手していて、18年度中にも完成する」見通しにあることを明かした。
 「我々は段階的な自動化の開発を進めており、ボタン一つで搭乗橋をコントロールするということは、先のことになるだろう」としながら、「2018年度中に開発を完了する自動化としては、オペレーターの負担を軽減するためのもの。オペレーターは搭乗橋内部にいて、搭乗橋のなかで航空機の10センチ手前までボタン一つで作動。最終的な設置作業は、オペレーターがマニュアルで操作するかたちを想定している」ことを明かした。

 

搭乗橋の故障診断や故障予知も
西宮から世界の搭乗橋をモニタリング

 

 ”全自動”でさえ既に目前に迫った搭乗橋。更なる進化を如何に考えているのか−−−。
 新明和工業はシンガポール・チャンギ空港のターミナル4の搭乗橋を受注し、さらにそのメンテナンスまで受託しているが、このチャンギ空港における取り組みに、一つのヒントがありそうだ。
 「チャンギ空港のターミナル4には25基の搭乗橋が装着されており、各搭乗橋の状態は稼働状況や故障状況について、空港のメンテナンス事務所でモニタリングすることができるようになっている」という。その上で「モニタリングして取得した情報をもとに、その搭乗橋の状況に応じてメンテナンス・スタッフが必要な工具を現場に持参してメンテナンス作業を実施している」ことを明らかにした。
 「その発展系として空港のメンテナンス事務所ではなく、我々の本拠地である兵庫県西宮市に常駐する搭乗橋設計部門でも同様にモニタリングすることができるようになればと考えている」とのこと。「西宮のエンジニア・スタッフが、個々の搭乗橋の情報を直接把握することができるようになれば、より迅速なメンテナンス対応がとれるようになるなど、お客様にとってもメリットは大きい」とし、直接搭乗橋の状態を把握することで、よりきめ細かいサポートを提供することができるようになるとの見通しを示した。
 現在はあくまでヘルスモニタリングとして、故障部位の検知などが活用されているが、”故障予知”というところには至っていない。そこで「例えば、リミットスイッチの稼働回数などをモニタリングすることで、故障を予知し、お客様に対して保全提案などにも活用することができるだろう」と、将来的には故障予知のサービス提供を視野に入れていることにも言及した。
 そうしたサービスが進化してくれば、搭乗橋ビジネスも大きく変化する可能性もあるかもしれない。
 「チャンギ空港ではフルメンテナンス契約でサービスを提供している。そのため我々の経験で部品寿命が近づいたと判断したら、パーツを購入して、故障前に事前に交換していた」としながら、「搭乗橋にも各種システムを組み込んで、お客様にメンテナンスの提案していくことが一つの大きなビジネスになるだろう。エンジンビジネスのように、将来的にはアフターマーケットで稼ぐようなビジネスモデルを検討していきたい」と話した。

 

急成長する東南アジア市場に注力

 

 世界的に航空需要が拡大しているなかでも、東南アジアなどアジア太平洋地域の成長はすさまじい。そのため空港建設・拡張、施設更新などのラッシュが続いている。
 中井部長は搭乗橋ビジネスについて、「トップシェアを誇る東南アジアに絞って活動を展開していく」ことを明かした。新明和工業として注力してきた国はシンガポール、ベトナム、タイだが、「今後は旅客数が急増しているインド、マレーシア、フィリピンなど、これまであまり食い込むことができていなかった国への営業活動を展開していきたい」との考えだ。
 「宗教や文化の違いなどがあることから、国によってパートナーやエージェントをみつけて、共に市場にアプローチして、事業規模を拡大していきたい」方針だ。
 すでに製造パートナーがあって、コストを抑えることが可能なシンガポールを中心に、東南アジア地域に集中した営業活動を展開していく考え。

 

関西エアポートから計100基の大量受注
大阪国際空港でフルフラット型納入開始

 

 新明和工業は東南アジアではトップシェアを有するとのことだが、国内ではライバルに先行されている。ただ今年2月には関西エアポートが運営する関西国際空港と大阪国際空港に、計100基もの搭乗橋を納入していくことが決まった。100基のうち、70基が関西国際空港で、残りの30基を大阪国際空港に納入する。このほど、大阪国際空港に対して、新型の「フルフラットタイプ」初号機を納入した。
 中井部長は「一括受注では関西エアポートからの受注が最も多い」としながら、「海外ではタイのスワンナプーム空港に対して、1本の契約で88基の受注を獲得し、その後、追加で17基、合計で105基の受注を獲得した」ことを明かした。さらに、シンガポール・チャンギ空港でも、ターミナル1、ターミナル2、そしてターミナル4において、一度に合計69基の受注を獲得した実績を有するという。
 関西エアポートとの契約で、大阪国際空港から受注した搭乗橋に関しては、全てが新型の「フルフラット」型となっており、これは”入れ子”状のトンネル間の段差やトンネル内部床両側の溝をなくすことで、車いすやベビーカー利用者による通行もスムーズにしたもの。さらに、搭乗橋の幅(内寸)については、「従来機に比べて幅が広く、旅客が歩く空間としてはゆったりとしていることが特長」だという。
 実はこのフルフラット型の搭乗橋では、新明和工業は後発組だ。
 中井部長は「2020年に東京オリンピック・パラリンピック大会の開催が決定するなど、マーケット・ニーズはフルフラット仕様へと傾いていた。新明和工業の開発着手時期が遅かった」との認識を示した。
 開発着手が遅かったこともあって、焦りを感じた新明和工業は、フルフラット開発を急ピッチで進めた。新明和工業の拠点に近い、関西国際空港と大阪国際空港における搭乗橋商戦案件をキャッチした同社は、是が非でも獲得したいという想いが強かったためだ。
 「(短期間の開発で)非常にハードルが高かった。我々は約二年間で新しいフルフラットの搭乗橋を開発することに成功した」ことを明かした。
 ただ、後発だったこともあって、開発までの道のりは決して平坦なものではなかった。
 「ブレーンストーミングの方法で、設計や技術のメンバーが集まって議論を重ねた。30件以上のアイデアが出され、そのなかで原価やメンテナンス性など、多角的に評価をして最終的に現在のかたちとなった」とし、活発な議論を経て、フルフラット搭乗橋の開発が実現した。
 このアイデアを生み出すことこそが最も高いハードルだったが、アイデアを生み出すことと並行して、「シンガポールに我々の製造サプライヤーがあるため、そこでモックアップを製作して検証を進め、宝塚工場でも耐久試験を実施した。」など、開発を急ぐべく、同時並行で作業を進めた様相だ。

 

チャンギ空港の稼働率は実に99.95%

 

 開発チームの試行錯誤を経て生まれた新型搭乗橋だが、そもそも新明和工業の搭乗橋の最大の強みは、恐らくその稼働率にあるのかもしれない。万一、搭乗橋に不具合が発生すれば、空港会社や航空会社のみならず、一般の旅客にも影響が及ぶ。その点、新明和工業がフルメンテナンスサービスを提供するシンガポール・チャンギ空港では、同社製の搭乗橋稼働率は、同空港から課された99.95%という高稼働率をクリアしている。
 チャンギ空港の搭乗橋へのサポートでは、シンガポールの現地法人であるShinMaywa (Asia) Pte. Ltd.が対応しており、新明和工業のスタッフが約15名、さらにアウトソーシングのパートナー企業がサポートしているという。
 中井部長は「メンテナンス担当者の意見を設計にフィードバックして設計改善に取り組んでいる。メンテナンスと設計が連携できていることが、大きな強みだろう。チャンギ空港で吸い上げた意見を、他空港にも横展開していくこともできる」と話した。
 関西エアポートとの契約についても、チャンギ空港と同様にフルメンテナンス契約だ。
 「万一、不具合が発生した場合、お客様センターに情報が入り、最寄りの営業所から駆け付ける体制を整えた。この部署は主として機械式駐車設備のメンテナンスを担っている部署だが、搭乗橋についても担当の移管を進めており、24時間、365日対応することが可能となる」とのことで、搭乗橋に割り当てる人的リソースの割合を増やす。
 その営業所から、「空港内に常駐しているサポート企業に連絡を入れて、不具合の対応を進めていく体制を考えている」とのこと。空港に常駐している実力あるサポート企業とともに、チャンギ空港で達成している高稼働率を上回る、100%稼働率を目指す。

 

※写真=新明和工業のパーキングシステム事業部システム本部空港施設部の中井義裕部長