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2023.07.20

【潮流】業者間取引の適正化

 日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)の通常総会が開催され、大畑貴彦会長(サイトラベルサービス社長)が再任された。今後、2年間会長職を務めることになる。大畑会長がOTOA会長に就任したのは2010年。今年で13年、2年後の2025年には会長職を15年務めることになる。
 大畑会長は、これからの2年について「総仕上げ」として、OTOA会長としての集大成と位置づける。そのために、この就任期間に取り組んできた旅行会社との取引条件の適正化、OTOA会員の拡大などの課題解決に向けて全力を注ぐことを表明した。
 2010年に大畑氏がOTOA会長に就任した時の所信表明では、「事業の大命題は、安心・安全に裏打ちされた良質な商品・サービスの提供にある」とした上で、3本柱として、①安全情報の充実、②事業者間取引の再検証、③協働の推進−−を掲げ、「これら3点の取組に全力を尽くす」と語った。中でも「事業者間取引の再検証を改めて行うことが必要」と強調した。

 これに遡ること3年前の2007年には、大手旅行会社がツアーオペレーターに対する支払いタームの短縮化を表明するなど、日本の商習慣とグローバル・スタンダードの違いの是正に向けた機運もあった。しかし、その後の海外旅行需要の減少で、2010年当時は事業者間取引の見直しや改善の兆しが後退していた。
 当時、大畑会長は「この問題に一刻も早く真摯に取り組まなければ、海外サプライヤーから日本市場が相手にされなくなる時代が来る」と警鐘を鳴らしていたが、その後の東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の世界的流行などを経て、旅行の素材からツアーに至るまで、インターネットが流通の主役になるとともに、その警鐘は現実のものとなった。
 「海外の受入現場では、ホテルを筆頭にほぼ全ての部分で値上げや支払いの厳格化が進んでおり、この傾向が継続していく場合、仕入れ競争が激化し、それらを受け入れられない地域からの観光客は排除される」と厳しい現実を語った。
 新型コロナウイルスは世界中に蔓延したが、世界各国はウィズコロナ政策による感染防止対策と社会経済の再開に舵を切ったものの、日本はその対策が遅れた。とくに、国際交流の水際対策に遅れを取り、ようやく昨年10月から緩和し、訪日外国人旅行は回復しているものの、海外旅行は今もコロナ前の30%台に低迷している。
 ゼロコロナ対策を取っていた中国からも遅れを取り、大畑会長は「中国やインドを含めたアジアや欧米の海外旅行はパンデミック以前の賑わいを見せている。それらの中で、日本人のプライオリティを上げるには現状を理解し、それ以上の状況を作り出さなくてはならない」と述べ、事業者間取引の適正化・グローバルスタンダード化を訴えた。もはや、海外旅行の仕入で日本市場が優遇されることはなくなった。
 ただ、ここ十数年のOTOAの働きかけもあり、旅行会社との事業取引は改善されてきてはいる。例えば、支払いタームは1カ月から月2回にに短縮され、デポジットの問題も両者間で話し合うなど、中小旅行会社を中心に取引改善の道が開いている。しかし、コロナ禍での資金繰りの悪化もあり、ツアーオペレーターへの支払いにそのしわ寄せが来ていることも事実だろう。
 日本人海外旅行の回復が遅れていることが、航空座席やホテルの仕入に影響していることは旅行業界全体の問題だが、海外OTAをはじめ旅行の流通形態が多様化している今日、業界の問題を一般社会にも理解を求めることは難しくなりつつある。海外旅行=パッケージツアーの時代ではなくなった。
 そうした中で、海外旅行専業の旅行会社やツアーオペレーターは、日本人海外旅行の回復が遅れている中で、今も厳しい経営環境にさらされている。とくに、ツアーオペレーターは海外旅行事業の最前線に立っている。海外ツアーオペレーターの存在なくして、日本の海外旅行事業の復活はない。旅行会社に業者間取引の適正化を求めたい。(石原)