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2019.01.14

2019年アウトバウンド正念場

 2019年の幕が開き、年始めは旅行・観光業界の新年祝賀会が相次いで開催された。観光立国政策により、祝賀会の来賓の挨拶は、訪日インバウンドが何千万人を超え、2020年の4000万人に向けて、今年も頑張っていきたいというような話にほぼ集約される。
 日本旅行業協会(JATA)、日本ツアーオペレーター協会(OTOA)、トラベル懇話会など、海外旅行アウトバウンド主体の業界の年賀会でも同じような調子で語られる。
 最近は少し傾向が変わってきて、一応、双方交流拡大の観点からアウトバウンドの重要性を申し訳け程度に付け足すようにはなってきた。官房長官、国土交通大臣から関係議員、役人に至るまで、大体その程度だった。
 ところが、今年は様相が大きく変わってきた。これは、観光庁長官に田端浩氏が就任したことが非常に大きい。運輸省観光部旅行振興課長時代からアウトバウンド施策に精通していた田端長官は、OTOAの賀詞交換会で来賓として挨拶し、その内容はインバウンドではなく、アウトバウンドの話に終始した。
 田端長官は、国土交通審議官として首脳外交に随行した経験などを交えて、アウトバウンド促進による相互交流拡大の重要性を指摘するとともに、観光庁として実施するアウトバウンド施策の遂行、さらには、航空座席供給量の拡大を契機にデスティネーション開発の取り組むことなど、旅行業界が実行すべき諸課題に言及した。
 観光庁は2019年度予算で、旅行安全情報共有プラットフォームを通じた旅行者の安全確保に前年度2.5倍の2億5100万円の予算を確保した。しかし、相互交流の拡大に向けた若者の海外体験促進事業の要求は見送られた。観光先進国実現のための双方向交流拡大へ、若者のアウトバウンド振興による国際感覚の涵養、人材育成が必要との考えから、自己研鑽目的での海外旅行を「海外体験」と位置付け、その促進を図るモデル事業を実施するものだったが、アウトバウンド促進の予算化の壁は高かった。
 それでも、2019年度にJATAアウトバウンド促進協議会(JOTC)は、観光庁、文部科学省、外務省と連携し若年層の海外旅行需要喚起を目指す活動「20歳初めての海外体験プロジェクト」を実施する。観光庁はJATAと協力して、こうした若者のアウトバウンド促進に向けて具体化に取り組む。
 JOTCは発足して今年3年目の「正念場」を迎える。来年の東京五輪を前に、今年は何としてもアウトバウンド2000万人に近づけてなくてはならない。幸い、追い風は吹いている。OTOAや新体制の駐日外国政府観光局協議会(ANTOR-Japan)との協力態勢は整った。さらに、心強いことに、観光庁がアウトバウンド促進で全面的に協力する。
 元観光庁長官の本保芳明UNWTO(国連世界観光機関)駐日事務所代表は、本紙の新春インタビューでアウトバウンドに対して見解を示した。「日本のアウトバウンドが少なすぎることは、我が国にとって害悪だ。若者にいかに海外を体験してもらうかは、まさに大きな課題。とくに国際観光旅客税を日本人からも取るからには、還元しないといけない。様々な環境要因も含め科学的な知見に基づいて議論していく必要がある」
 出国税「国際観光旅客税」の徴収は始まった。予算の壁は高いが、日本人からも税を徴収する以上、その裨益として、日本人の海外旅行を促進する施策への使い道をあきらめずに検討すべきと考える。
 そのためにも、若年層の海外旅行需要喚起を目指す活動は重要で、今後のためにも「海外体験プロジェクト」について、徹底的に議論していかなければならない。(石原)