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2022.08.31

WING

第159回「日本が危ない」台湾有事は日米同盟有事と知れ

中国が事実上の海峡封鎖
現実となった複合危機

 

 「台湾有事は日本有事」――7月8日に銃撃されて死亡した元首相、安倍晋三が生前、語っていたことが現実の事態になろうとしている。米下院議長ナンシー・ペロシの台湾訪問に反発した中国は弾道ミサイル発射をはじめとした軍事演習を実施した。これまでも台湾海峡危機はあったが4回目の今回は事実上の海峡封鎖ともいえ、危機のレベルが格段に上がった。折しも、東京都内では8月6、7の両日、政治家、元自衛隊幹部らが参加した台湾シミュレーション(日本戦略研究フォーラム主催)が行われた。台湾有事と日本有事という「複合危機」にどう対処するかが問われた。2回にわたってシミュレーションの模様を報告する。
 シミュレーションの筋書きを描いた元空将、尾上定正は今回の中国による演習を「海上封鎖の予行演習」と位置付けた。台湾総統だった李登輝の米国訪問に反発した中国が1995年から1996年に起こした第3次危機では、中国軍は演習区域を中国本土の沿岸に設定し、中台中間線を越えることはなかった。今回は台湾を東西南北に囲むように6ヵ所の海域、空域を設定し、演習を実施した。海上封鎖は日本にとっても重大事である。台湾海峡はシーレーン(海上交通路)の要衝でもあり、中国軍が演習を実施している間は商船の通航はできないからだ。
 しかも、中国軍が4日午後に行った弾道ミサイル発射では11発中5発が日本の排他的経済水域(EEZ)の内側に落下した(日本側はこの日の時点では9発発射を確認)。中国の弾道ミサイルが日本のEEZ内に落下したのは初めてのことだった。さらにこの日、中国軍の無人機2機が沖縄県の先島諸島周辺の上空を飛行した。4日午前から夜にかけて偵察型無人機(BZKー005)1機と、偵察・攻撃型無人機(TB-001)1機が東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島との間を通過した。中国軍所属と推定される無人機1機も東シナ海から台湾北東沖の公海上空を飛来、一連の動きに対応するため航空自衛隊の南西航空方面隊の戦闘機が緊急発進した。
 中国海軍のミサイル駆逐艦1隻も尖閣諸島(沖縄県石垣市)魚釣島西側の海域で活動した。中国軍は翌5日には戦闘機68隻、軍艦13隻が中台中間線を越えて大規模演習を実施した。台湾側は「中間線を意図的に越え、台湾周辺の空海域で挑発行為に及んでいる」と中国軍を非難した。尾上は朝日新聞のインタビューに対し「威嚇のレベルは一段も二段も上がったといえる」との認識を示した。
 こうした中国軍の動きについて、シミュレーションで「米国務長官」役で参加した衆院議員、長島昭久は自身のツイッターに「これが中国流『強引反応戦略』だ。これまで暗黙の了解だった中間線を無効化し我が国のEEZも堂々と無視。平時はサラミ戦術で徐々に既成事実を積み重ねるが、相手のアクション(今回はペロシ訪台)を逆手に、強引に踏み込んでくる」と書き込んだ。

 

グレーゾーンから急速に変化
押し寄せた漁民が尖閣上陸

 

 シミュレーションはもともと予定されていたが、今回の台湾危機とタイミングが重なった。10人を超える衆参国会議員も参加した。同フォーラムの最高顧問だった安倍も参加する予定だった。

 

8月4日の中国無人機の行動(提供:統合幕僚監部)

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