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2026.03.03

ウイングトラベル特集

【潮流】旅の行方を左右せぬことを願う

 2月28日に米国・イスラエルがイランに対して攻撃を実施した。それに対してイランが中東各国の米軍基地をターゲットにした攻撃を行った。これに伴い、アラブ首長国連邦(UAE)やカタールなど複数の国の領空が閉鎖され、航空会社の運航に支障をきたす状況となった。
 折しも、日本人のパスポート保有率が1ポイント強の上昇ながら18.4%となった。国際線ターミナルで卒業旅行に出かけようとしている若い世代の人々と出会う機会も増えてきた。そうした流れのさなかで、今回の武力衝突である。コロナ禍、円安、物価高、ロシア・ウクライナ紛争による飛行ルート変更など、アウトバウンドを取り巻く厳しい状況が続くなかでも、旅行業界の関係者らは海外旅行の需要喚起に奮起してきた。しかし、業界の自助努力が及ばない事案が発生し、さらなる試練が与えられたと言わざるを得ない。
 イランや湾岸諸国における今後の情勢がどのように推移するのか、現時点では見通すことが難しい。当面は安全・安心を第一に考えた取り組みが求められることになる。一方で最近の中東地域は、日本人の海外渡航にとって重要な中継地の1つとして存在感が高まりつつある。日本発着の欧州線やアフリカ線に限らず、北米・南米方面への乗り継ぎでも湾岸ハブの利便性は高い。運航が揺らげば、旅行者の計画だけでなく、旅行会社の商品造成や販売計画にも影響が及ぶ。それだけに、影響が最小限にとどまることを望まずにはいられない。
 今号の紙面を眺めると、パスポート保有率上昇の話題をはじめ、明海大学が旅行業界と連携して全新入生をグアムに招いて研修を実施し、若者の国際感覚醸成に向けた動きに乗り出す話題や、ZIPAIR Tokyoが米国オーランドへの直行チャーター便の運航を開始したという新たなチャレンジを紹介している。
 さらに、26日から公開が始まったJATA経営フォーラムでは、海外旅行の将来を展望する中でのパッケージ旅行商品のあり方について、さまざまな視座から提言が行われていた。業界の各所で奮起や需要開拓に向けた動きがあるなかで、今回の事態は非常にもどかしい。
 前号の小欄では「減速を憂うことなく、体験価値の積み上げを」ということを論じさせてもらった。足元の中東情勢を踏まえれば、一時的な需要減速は避けられないだろう。ただ、情勢が落ち着きを取り戻した際に、「自粛ムード」が色濃くなることは避けたい。本紙としては、いち早く実情を広く伝えることに加え、需要の回復に向けて旅行業界や海外諸国の政府観光局が発信するメッセージをつぶさに拾い上げ、ポジティブな動きとなるように業界とともに歩みをすすめていきたいと考えている。
 今回のニュースを聞いて筆者の頭に浮かんだトピックスの1つが、昨年7月に行われた「兼高かおる賞」の受賞式だ。その時に同賞を受賞したのが、イランにルーツを持つ俳優・タレントのサヘル・ローズさんだった。
 サヘルさんは受賞式の席上で「われわれは『旅』という言葉が使える。自由に旅ができることを当たり前のことではないということも知っておいてほしい」と述べ、旅が平和の象徴であるという点を強く訴えた。さらに「パスポートを持って自由に移動できる喜びをかみしめて、これからもそれを守ることができる世界であってほしいと願っている」とスピーチした。本稿を執筆しながら、この言葉を改めて思い起こし、強くかみしめた次第だ。
 本紙の読者にとっては釈迦に説法のことかもしれないが、国連が1967年を「国際観光年」に指定するにあたって定めたスローガンは「観光は平和へのパスポート」である。観光は、すべての人々、すべての国の政府の賞賛と奨励に値する基本的、かつ最も望ましい人間活動であり、世界各国の人々の相互理解を推進し、種々の文明の豊かな遺産に対する知識を豊富にし、異なる文明の固有の価値を正しく感得させることによって世界平和の達成にも大きく役割を果たす——。国際観光年指定時の決議内容を改めて記した上で、平和への祈りに思いを馳せるとともに、アウトバウンド促進にこれ以上の試練を与えることのないよう願いたい。(嶺井)