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2025.12.11

ウイングトラベル

★船会社とYouTuberが語るクルーズ需要拡大への鍵

 クルーズ人口100万人に向けたメディア戦略

 

 クルーズイズムが開催した「クルーズEXPO 2025 東京」では、「船会社×人気YouTuber 情報発信が鍵を握るクルーズ人口の拡大」をテーマにパネルディスカッションが行われた。クルーズ会社とインフルエンサーが登壇し、SNSを軸とした新たなコミュニケーション手法をクルーズ振興にどうつなげ、日本人クルーズ人口100万人時代を実現させていくかという点をポイントに、多角的な視点から議論が交わされた。
 登壇者は、船会社・販売代理店側から商船三井クルーズマーケティングの山本佳之介氏、セブンシーズリエーションズ代表取締役の榎本律子氏、ミキ・ツーリスト クルーズカンパニー営業・マーケティング課マネージャー橋本行彦氏の3人。インフルエンサー側からは、旅行系YouTuberのYKKさん、こやトラベルさん、Haru Dailyさん、女子旅クリエイターのトンちゃんさんの4人が参加した。ファシリテーターはクルーズイズムの久野健吾代表が務めた。

 

 YouTubeの「リアル」が高齢者層の集客にも
 船会社は“個性の伝達”を重視

 

 冒頭、久野氏が「クルーズ振興における情報発信の重要性」を問いかけると、橋本氏はまず国内市場の現状を数値で説明。日本のクルーズ人口は0.2~0.3%(20~30万人)と極めて小さく、「日本人の99.8%が未経験者であり、市場は“青天井”」と指摘した。またCLIA(クルーズライン国際協会)の調査では、乗船経験者の82%が「再び乗りたい」と回答している点にも触れ、「クルーズ産業の未来は明るい」と見通しを示した。
 さらに橋本氏は動画メディアの効果について強調。「YouTubeはクルーズとの相性が抜群で、人気インフルエンサーの動画を見て予約したという声も多い。疑似体験による“没入感”が訴求力を高めている」と述べ、今後も多様なメディアとインフルエンサーを組み合わせながら発信力強化を進める考えを示した。
 一方、インフルエンサーの立場からトンちゃんさんは、「私たちは公式サイトでは伝えきれない“リアル”を届ける役割。ミレニアルやZ世代はネタバレが好きで、細部まで情報を知りたいニーズが強い」と発信のポイントを説明した。
 YKKさんも「クルーズ系動画は伸びやすいジャンルとして旅行系YouTuberの中でも話題になっている。乗りたいと思っているYouTuberは多いので、どんどん起用してほしい。ただし起用過多は逆効果にもなるので、情報の質やバランスが重要かもしれない」と述べた。
 続けて久野氏が「船会社がインフルエンサーに求めるもの」を問うと、山本氏は「クルーズはラグジュアリーイメージが強く、利用者の年齢層も幅広い。そこに適切に届くコンテンツ制作ができるインフルエンサーを起用したい」と説明した。
 これに対し、こやトラベルさんは「SNSは若者向けと思われがちだが、実際は高齢層の視聴が多い」と述べ、Haru Dailyさんも「視聴者の半数以上が45歳以上で、70~80代の視聴者もいる。YouTubeは幅広い層に届く」と強調した。
 YKKさんは小型船が多く映像的インパクトが出にくいラグジュアリー船の発信について、「小型船こそ、その船の歴史や背景が大切となる。丁寧にその魅力を伝えるために乗船前の事前学習は不可欠だと思っている。その辺りをインフルエンサー選出の際は、視野に入れてほしい」と提案した。
 榎本氏は「かつては“豪華客船”とひと括りにされていたが、今は船ごとの個性が際立ち、単純なカテゴリー分けが難しい」と説明。「ラグジュアリー、プレミアム、カジュアルという区分を超えて多様性が広がる中で、その個性を適切に伝えられるインフルエンサー起用が重要」と述べた。
 総括として久野氏は「YouTubeは全方位型で、ラグジュアリー層にも届く。船の個性を活かした体験発信をつなげることで、クルーズ振興に寄与できる」とまとめた。

 

 認知拡大には継続的な啓蒙が不可欠
 マーケティングを活かした戦略も必要

 

 議論はインフルエンサーが抱える課題にもおよんだ。YKKさんは「効果測定のためのデータが必要。コンバージョンに基づき、適切にインフルエンサーを使い分けてほしい」と要望した。
 これに対し山本氏は、「成果指標は重要だが、長期クルーズは現役世代にはハードルが高く、短期的な成果だけでは測れない。啓蒙活動としての継続性も大切」と説明した。橋本氏も「数年前の動画が急に再生されることも多い。認知は地道な積み重ねで広がる」と述べた。
 また、Haru Dailyさんやトンちゃんさんは「有料エリア(コンプリメンタリー外)にも魅力が多いが、すべてを自腹で体験するのは限界がある」とし、撮影協力の必要性を指摘。これに対し榎本氏は「できる限り協力したいが、クルーズ料金は高額であるため成果とのバランスは慎重に見極める必要がある」と理解を求めた。
 最後に、クルーズ人口100万人に向けた展望について、橋本氏は「コロナ前は利用者の3割が初クルーズだったが、現在は5割に増えており認知拡大が進んでいる」と報告。「中期的視点で顧客層を育て、クルーズの魅力を着実に伝えていく」と意気込みを示した。
 インフルエンサー側からは、こやトラベルさんが「海外では豪華客船でも若者が普通に乗っており、認知度がまったく違う。日本にはまだ“手頃なクルーズ”を知らない層が多く、そこにアプローチできるのが私たちの役割」と述べたうえで、「ターゲット、価値、価格帯を整理し、適切なインフルエンサーを選んで効果的に活用してほしい」とまとめた。

※画像=パネルディスカッションに登壇した久野氏、榎本氏、橋本氏、山本氏、YKKさん、Haru Dailyさん、こやトラベルさん
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