2018.07.11

WING

JAXA、航空機電動化向け異分野糾合し産学官連携

短中期は小型機や装備品視野、40年代にはエンジン電動化を

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月1日に発足した航空機電動化コンソーシアム(ECLAIR:Electrification Challege for AIRcraft)について、「今年12月に第1回目のオープンフォーラムを開催するが、そこでビジョンを発表したい」(JAXA航空技術部門次世代航空イノベーションハブエミッションフリー航空機技術チーム:西沢啓研究領域主幹)との見通しを示した。西沢主幹は「何年代に何席クラスの機体を開発するのかということをコンソーシアムのなかで策定して共有することが最初の活動」との認識を示しながら、「最終ゴールとしては、2040年代に旅客機エンジンを電動化することを目指したい。かなり長期的な取り組みとなることから、短中期的には小型機や旅客機の装備品の電動化も視野に入れている」ことを明かした。
 このコンソーシアムはJAXAが代表・事務局を務め、その下に民間企業7社と経済産業省らが加わるステアリング会議を構成。オブザーバーとして、航空局、日本航空宇宙工業会(SJAC)、全日本航空事業連合会、防衛装備庁航空装備研究所、東京大学、そして文部科学省研究開発局宇宙開発利用課が参加する。さらに、一般会員としては空飛ぶクルマの開発を進めるCARTIVATORのほか、本田技術研究所、デンソーら計8機関が既に参画しており、今後拡がっていくことが期待できそうだ。
 各国で熱を帯びている電動航空機、あるいは電動の空飛ぶクルマ開発だが、そうした流れに日本が乗り切れているとは言い難い。コンソーシアムを通じて、国内航空機産業のみならず、世界でもトップクラスの力を持つ国内電機メーカーなど異業種を糾合することで、日本の電機航空機・空飛ぶクルマ開発の巻き返しを図る狙いだ。
 なお、JAXA航空技術部門における次世代航空イノベーションハブとしては、航空における特殊気象を研究するウェザーアイコンソーシアム、装備品認証基盤技術の研究開発を推進する航空機装備品ソフトウェア認証技術イニシアティブに続き、第三弾の仕掛けとなった。

 

新分野の電気航空機、「業界地図は固定していない」
国内企業に参入チャンスあり

 

 電動旅客機、あるいは都市部の渋滞を回避するためのアーバン・モビリティとしての小型電動航空機(空飛ぶクルマ)に関するニュースが、世界中を駆け巡っている。一方、日本国内では有志団体のCARTIVATORが奮闘するも、既に飛行実証を実施して実用化目前の状態にある諸外国に比べると、どうしても遅れている感は否めない。
 そうしたなかJAXAが主導するかたちで結成されたECLAIRコンソーシアムには、航空機産業を手掛ける国内大手重工はもちろん、電機関係の大手企業も加わっている。
 西沢主幹は「推進システムを構成する要素技術については、国内に有力企業が多数ある。(電動航空機は)要素技術レベルから長期的な取り組みを要する新しい分野で参入障壁は高いが、実用化されていないため、業界地図はまだ固定していない」との認識を示しつつ、「国内企業にも多くの参入チャンスがある」との考えを明かした。

 

ECLAIRコンソーシアムの狙いとは

 

 コンソーシアムの目としては航空工学分野のみならず、異分野も含めた連携・協調によってCO2排出などの環境負荷の抜本的な低減を目指した航空機電動化を目指した革新的な技術を創出すること。二つ目は日本の航空産業の飛躍的な規模の拡大に向けて、産業界のイニシアティブ醸成のための産学官連携のための基盤を構築することの二つ。
 西沢主幹によれば、コンソーシアムでは3つの事業を展開していく計画で、一つ目は「社会実装に向けた将来のビジョンとロードマップの策定する」という。航空機電動化および関連技術の社会実装計画、研究開発計画を、国内企業と共に策定して共有することのほか、様々な適用対象およびアプリケーションについて社会ニーズに基づき、いつどうのような航空機またはサブシステムを社会に適用していくかなど、社会実装に向けてどのようなステップで各技術を開発していくのか、ビジョンを国内企業と共に策定していく方針だ。
 また、二つ目には革新的技術を創出するための挑戦していく。国内の研究開発が海外に比べて競争優位に立つためには、「高い目標を設定して、抽出された重要技術課題について研究開発を共同で実施していく」としており、「そのプロセスのなかでは飛行実証などを含めてユーザにアピールできるような成果を創出する」ことを目指す考え。
 3つ目は国内産業のイニシアティブを醸成するための枠組みづくりを目指す。「産業界が取り扱いやすい時間尺度で社会実装計画を策定する。最終的には旅客機の電動化ということをゴールに設定するとして、それは非常に長期間を要することから、長期計画に繋がるような短期計画について明確にしていきたい」と話す。
 その上で、「参加各社の強みを糾合する最適な連携体制で共同研究開発を実施する。そのなかで外部資金なども積極的に活用していくほか、得られた成果、情報知見などについては、技術交流会、オープンフォーラムを開催して、外部とも情報交換、新規会員の拡大を図りたい」としている。加えて、「電動航空機については認証基準が全てのカテゴリーで定まっているわけではない」としており、国際会合やシンポジウムなどが相次いで開催されていることから、情報収集することで参加各社と情報を共有していくことを目指す。

 

世界で急速に進んだ電動航空機研究開発
 

 

 電動航空機の研究開発は、遡れば1970年代からスタートしている。ただ、電池やモーターの技術が未成熟であったため、それほど開発が進まなかった。
 ところが2000年代になって、徐々に現実味を帯びるようになってきた。「この頃はエンジンを電動化することは現実的な話しではなくて、非常に小さな出力規模のモーターグライダーやスポーツ用の航空機がようやく成立する程度だった。その出力も10数キロワット程度で微々たるものだった」が、70年代に芽生えた芽が少しずつ成長してきている。
 そして飛躍的に進歩した背景には、リチウムイオン電池採用とモーター性能の向上が挙げられる。
 西沢氏によれば、「2010年ぐらい前後に、航空機エンジンを電動化する技術開発が盛んに行われるようになってきた。その出力規模も指数関数的に上昇しており、現在は200キロワット以上の電動航空機が成立している」とのこと。「これまでは実験機の段階であったが、2020年以降、そろそろ実用機になっていく」見通しだ。
 こうした状況を受けて、米国では既に国も動き始めた。2017年にはFAR Part23(小型機)を全面改訂に踏み切っており、電動航空機に適用することが可能となった。こうしたFAAの対応を受けて、「数社が認証を目指して機体開発中。小型機ながら2020年ぐらいから実用機に入っていくだろう」としている。
 また、小型機のみならず旅客機についても、エアバスが”E-Thrust”という100席級のエンジンをハイブリッド化して、2030年代〜2040年代に投入するという構想を発表済みだ。ロールス・ロイス、シーメンスらと組んで実用化することを目指す”E-Thrust”は既に要素技術開発に着手しているところ。

 

電動化方式は複数の道が
方式により長短、適用対象により異なる解

 

 一口にエンジン電動化といっても、その方式は複数の道がある。一番単純な形式としては、二次電池の電力で電動モーターに接続されたファンを接続する「フル・エレクトリック方式」(ピュア・エレクトリック)が挙げられる。加えてハイブリッド方式としては、エンジンの軸動力で発電機を駆動して、その発電機で生成した電力で電動ファンを駆動する「シリーズ・ハイブリッド方式」と、エンジンの軸に電動モーターを設置して、ファンの駆動力としてエンジンの動力と電動モーターの動力を活用する「パラレル・ハイブリッド」がある。
 西沢氏によれば、「これらのエンジン方式には、それぞれ長所・短所がある」とのこと。「推進ファンの個数やレイアウトにも自由度があって、選択肢はかなり広い。これらのなかでどれが最適なのかという解が出ているわけではないし、適用する航空機の対象によって異なると考えられる」との認識を示した。
 「フル・エレクトリック方式はシステム構成が非常に単純。整備を大きく下げることができる。バッテリーに電気を貯めることができれば、ほとんどロスはなく、総合的には効率が高い」という。「ただし、バッテリーと電動モーターだけの構成であるため、バッテリー性能がよほど飛躍的に進歩しない限り、旅客機にこの方式を適用することは難しく、どちらかといえば小型機向けの技術」との見解を示した。
 「シリーズ・ハイブリッド、パラレルハイブリッドは、ジェットエンジンと電動モーターの双方を用い、燃料もジェット燃料を使うことができることから旅客機に適用することが技術」との見方を示しつつ、「なかでもシリーズ・ハイブリッドは電動モーターや電動ファンの数を、ある意味でいくらでも増やすことができる。ファンの個数、レイアウトに自由度があって従来にはない革新的な機体形状を有する旅客機や小型機に適用することができる」と話した。
 また、パラレル・ハイブリッドについては、「旅客機に適用しやすいシステム構成。ただし、ジェットエンジンの軸にファンが付いているため、ファンのレイアウトに関しては自由度がない。システム構成としてはシリーズハイブリッドに比べると簡単」としつつ、「システム的には導入しやすいものの、ファンのレイアウトに自由度がないことから、恐らく燃費削減効果はシリーズ・ハイブリッドに劣るだろう」との見解を示した。

 

※画像=JAXAがイメージする高効率発電機を電力源としたハイブリッド推進システムのイメージ(提供:JAXA)