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2020.06.29

ウイングトラベル

ウイングトラベル海外旅行復活・緊急座談会

コロナ後のアウトバウンド復活への道筋とは

座談会出席者
*遠藤修一 JATAアウトバウンド促進協議会副会長/北中南米部会部会長 (JTB執行役員 個人事業本部 海外仕入商品事業部長)
*金子宗司 グアム政府観光局日本代表
*稲田正彦 日本旅行業協会海外旅行推進部長
*司会=石原義郎 航空新聞社取締役ウイングトラベル編集長

グアム、日本人観光客受入再開準備進める

 新型コロナウイルス感染症は世界的に広がり、日本だけでなく世界の観光産業に大きな影響を与えている。そうした中で、日本人の海外渡航者数ランキングで長年にわたりトップ10に位置するグアムは、世界に先駆けて日本人観光客の受入再開を表明した。しかし、「コロナ後」のアウトバウンド市場の復活には高い壁が立ちはだかる。今後、いかなる取り組みを行い、グアムへの送客を実現させ、アウトバウンド市場回復の道筋を描いていくべきか。JATAアウトバウンド促進協議会(JOTC)副会長で、北中南米部会の遠藤修一部会長(JTB執行役員 個人事業本部 海外仕入商品事業部長)、グアム政府観光局(GVB)の金子宗司日本代表、日本旅行業協会(JATA)の稲田正彦海外旅行推進部長の3人に参加していただき、グアムを突破口とする海外旅行市場の回復への課題について討論した。

 

2019年グアムへの日本人旅行者21%増
販売促進、旅行会社支援プログラム奏功

■コロナ前のグアムへの日本人旅行需要の推移は
金子:2019年のグアムへの日本人来島者数は前年比21.6%増の68万4800人と伸びた。また、航空座席数も18.9%増の87万5310席となった。日本人旅行者が前年から2割近く伸びた要因としては、航空座席数の増加に加え、日本の旅行会社による積極的な商品販売が奏功した格好だ。グアムへの旅行需要の高まりに対応してチャーター便を運航し、需要の取り込みにつなげてもらったことが大きかった。加えて、GVBが実施した販売促進に直結する旅行会社向けのサポートプログラムの展開なども来島者増加の一因となったと見ている。

金子宗司グアム政府観光局日本代表

 

 日本人のグアムでの消費額についても直近では平均580ドル程度で推移し、堅調に推移している。とくに、女性の消費額は高く、平均700ドル程度で推移している。グアム観光における日本人マーケット拡大に向けては、10〜20歳代の若い世代の取り込みが重要であると考えている。この世代を中心に旅行需要を喚起していくことで、来島者の増加や消費額の増加に結びつけたい。

 

新型コロナ禍、かつてない甚大な影響
早期の渡航規制緩和が切なる願い

■新型コロナウイルスの存在が海外旅行マーケットにもたらしたインパクトとは
遠藤:今回の新型コロナウイルスは、旅行産業にかつてないほどの甚大な影響を与えている。JTBは4月から7月まで、すべての海外ツアーの催行を中止した。かつての感染症では国内旅行や法人部門へのリソースのシフトが可能だったが、今回はそれも厳しい状況に陥っている。海外旅行に関しては航空便が停止していることや諸外国が受入に相当慎重になっており長期化が懸念される。いずれマーケットは回復するとは考えているが、それがいつというのが見えない状況だ。現在は実業務がない状態なので、7月以降は添乗員を起用したウェビナーや旅行説明会などB2Cでのコミュニケーションをはかっている。

遠藤修一JATAアウトバウンド促進協議会副会長

 

稲田:新型コロナの影響度はこれ以上の厳しさはないといった印象だ。そうした中で現在の渡航規制が緩和されることはなかなか難しい情勢だ。われわれとしては、できる限りのことに取り組む必要があると考えている。会員各社の現状は国内旅行部門に人員をシフトしたり、海外専業の会社は一時休業し、雇用調整助成金でなんとかギリギリ維持している状況だ。そうした中で、われわれとしては早期に渡航規制が緩和してもらいたいというのが切なる願いだ。

 

グアムの市民生活、ほぼ通常時と同様に
各施設に衛生対策、安心・安全の動画制作

■世界中で外国人の入国規制が続く中、グアムはいち早く日本人観光客の受入を決めた。グアムの新型コロナウイルスの感染状況はどのようになっているのか
金子:グアムで最初に感染が確認されたのは3月15日。最初は3人の感染が確認された。その後3月20日から医療機関、食料品店、ガソリンスタンド、銀行などエッセンシャルビジネス(生活に関わるビジネス)以外のすべてのビジネスが閉鎖された。
 感染者数はこれまでに188人の感染が確認され、このうち死亡者は5人にとどまっている。感染者数は減少傾向にあり、6月中旬までに感染者数の報告がゼロだった日も39日間あった。(6月17日現在)
 市民生活のリカバリーに関しては「PCOR」という指標がある。この基準は1〜3のステップがあり、5月10日以降はステップ2に緩和されている。レストランやフードコート、ビーチも再開。ビジネスもほぼ再開しており、通常生活に戻りつつある。
 一方で、グアムの様々な場所では1.8m以上の間隔を開けるようソーシャルディスタンスが保たれている。また、レストランも従来に比べて約半分のキャパシティになっている。このほか、ホテルでも万全な衛生対策が行われている。また、空港の出入国管理ゲートでもソーシャルディタンスの遵守が行われるなど、人が集中しないような対策措置が取られている。

 

■受入再開に向け、観光局の準備の進め方は
金子:われわれとしては、日本から旅行に行かれる人たちのために分かりやすい情報を提供したいと考えている。6月5日からはGVBのホームページで現地のホテルの感染対策に関するページを作ってある。これはグアムのホテル13社が衛生対策などでどのような取り組みを行っているかを紹介しているものだ。各ホテルの営業担当者からは毎日のように情報をもらい、適宜アップデートを行うようにしている。
 これ以外では、先般現地の感染防止対策を紹介する動画が出来上がり、近く公開していく予定にしている。できるだけ多くの施設に安全対策に関する動画の制作をお願いしている。観光客の受入を再開するのにあたって、グアムの施設がどのような対策を講じているかについては映像で見てもらうのが一番わかりやすいと考えている。一般の旅行者や旅行会社のみなさんに見てもらって、安心してグアムに行ってもらうという流れを作っていきたいと考えている。

 

グアム旅行再開後、いち早い商品展開へ全力集中

■グアムの日本人観光客の再開についてどのように受け止めているか
遠藤:海外旅行商品の販売を前のめりになって再開したいというのが正直な気持ちだ。まずは観光客の受入を再開したデスティネーションに全力を集中したい。その最初の動きができるデスティネーションとしてグアムに大きな期待を持っている。
 現在、すべてのデスティネーションでツアー催行を中止しているが、グアムに関しては催行中止を短めで判断している。催行中止判断を遅らせることは取消料の問題などでお客さまへの配慮が必要だが、それでもグアムについてはツアーができるようになったら、いち早く商品造成したいと考えているため、他のデスティネーションと異なる対応を行っている。
グアムの再開はアウトバウンド再開の突破口になると考えている。

 

渡航規制緩和へ窓口開設、ガイドライン策定も
旅行業界の活性化へ海外旅行の早期再開実現を

■グアムへ旅行再開には、日本政府の渡航規制緩和が不可欠だが
稲田:海外旅行の再開についてJATAとして取り組んでいることとして、まずは各国の情報を集約して、オンラインセミナー等を通じて旅行会社に情報発信をするといった取り組みを行っている。これに加えて、安全・安心の海外旅行の実現に向けたガイドラインの策定に乗り出している。

稲田正彦JATA海外旅行推進部長

 

 ガイドラインに関しては、現在、観光庁とガイドライン作りに関する定期的な会議を行う体制を構築した。これに加えて、各国政府観光局やOTOA(日本ツアーオペレーター協会)と協力体制をとり、海外各国のガイドライン構築に向けた動きに関する情報収集も行っていきたい。そうした中で、まずはスタンダードなガイドラインを策定し、これに基づいて各旅行会社ごとにガイドラインを作ってもらうという流れにしていきたい。ガイドラインは、海外旅行マーケットが復活するタイミングまでには作り上げていきたい。
 同時に海外各国・地域に対して日本人観光客受入再開に向けた働きかけを進めていく。とくに、パッケージツアー造成に不可欠といえる検疫体制の確立や自己隔離を緩和を訴えていきたい。この一環として観光庁に働きかけの窓口を設けていただいた。この窓口を通じて取り組みを進めていく。すべての市場を一気に回復させるということは難しいので、できるところから突破口を開いていきたいと考えている。
 渡航規制緩和については2国間交渉というのが基本になると考えている。
そうした中で米国の準州であるグアムに対しては、どのような交渉が行えるかということが気がかりになっている。渡航規制が始まったときは、米国本土とハワイ、グアムと切り分けて実施された。この逆の考えで規制緩和が実施されることを期待したい。また、政府や大使館とあわせて、航空会社に対しても渡航規制緩和後の早期の航空路線再開に向けた働きかけを行っていきたい。
遠藤:経済を回すという観点から海外旅行再開の流れに持っていくことはできないだろうか。旅行会社にとって、海外旅行事業は企業の存続において非常に重要な役割を担っていると思う。経済活性化のために休業を緩和するのと同様の観点で、もちろん必要な対策を講じた上で、海外への出国規制を緩和してもらうという要望ができないものかと考えている。
金子:われわれもグアムの総領事にお会いして、日本人観光客の渡航規制緩和に関してわれわれの想いを伝えて、一定の理解を得られたと考えている。一方で、グアムの観光客受け入れ再開は日本とともに韓国・台湾も対象となる。他の国・地域からの観光客がグアムで観光を行っているということを見せていくことも、渡航規制緩和に向けた安心・安全感を訴求する1つの手段としては有効ではないかと考えている。ただ、われわれとしてはその役割を何とか日本が果たしていきたいというのが正直な想いだ。

ポスト・コロナで旅行商品の形態に変化
安全・安心が商品造成の最優先課題に

■新型コロナウイルスの問題を経て、旅行のあり方が変わろうとしている
遠藤:これからのパッケージ商品を造成していく上で、新型コロナの影響による市場ニーズの変化を考えると、これまでの商品は受け入れられない。今後は感染防止策というミニマムスタンダードの構築はもちろんのこと、「ニューノーマル」という価値観や行動様式に対応したコンテンツの開発、企画、過ごし方の提案が必要である。
 この大きな変化の中で、日本人アウトバウンドが量から質に転換していく分岐点になるのではないかと感じている。これからは出国者数2000万人を、もう一度追いかけるだけでなく、どのような属性の消費者が、どのような形態で海外旅行に出かけ、何を持って満足したのかという中身がより重要になってくる。
 さらに、マスではなく個に対応したビジネスモデルの転換が求められる。密を避けるには少人数催行のツアーが必要となり、感染防止対策へのコストも発生する。これはブラケットアップが収益に寄与したこれまでのモデルとは逆の方向に行くことになるので、そのようなニーズに対応し適切な収益も確保できる造成基準について、JTBの社内でもさまざまな議論が行われているところだ。
稲田:これまでも旅行業は価値創造産業になると言われてきたが、今回の新型コロナウイルスの問題を経て、業界の変化を図るタイミングであると考えている。海外旅行者数は中期的には増えていくと考えているが、そうした中でどのような商品が受け入れられていくのかを考えていく必要がある。直近のところでは、まずは安全・安心の提供というところになるが、その後は旅行体験を増やして滞在を長くするための施策やサスティナブルのために新たな取り組みを展開するなど、安全・安心に加えてさらなる価値観を消費者に訴えていくことが重要となる。
金子:やはり、安心・安全というのがトッププライオリティに入ってくるのは間違いない。これを保証できる商品というのが今後の中心になるのではないのか。とくに、新型コロナウイルスのワクチンが出てくる1年程度がこれまで以上に質の高い商品というものが好まれていくのではないかと考えている。われわれとしてはそうした商品の造成につなげられるようなプロモーションも行っていきたいと考えている。今後も引き続きグアムでの感染予防対策ビデオの紹介、並びに現地視察(FAM)も検討していきたい。また、グアム政府観光局ではグアムの美しいコンテンツを通じてグアムの温かい精神を広めることにフォーカスしたキャンペーンを実施している。動画「Give Us A Moment(時間をください)」はYouTubeでもご覧いただける。

 

 

テレワークの普及で休暇の在り方に変化
ワーケーション目的地としてのグアムに期待

■テレワークの急激な普及など働き方が変わる中で、休暇の動きが変わってくることが予想される
遠藤:働き方の変化で行動様式は変わってくると思う。いわゆるオンとオフの境目がなくなり、長く休暇を取りながらワーケーションを行ったり、出張の後にレジャーを楽しむという行動が普通になってくるのではないか。そのようなニーズに対応した商品展開が必要になってくると考える。
 グアムと言えば、これまでは3泊の商品が定番だったが、ワーケーションが普及してくれば、旅程の固定概念が変わる可能性がある。
稲田:今回の新型コロナウイルスによる外出規制を経て、多くの人たちがテレワークを経験する形となった。これは時間の使い方が変わる良いチャンスではないかと考えている。日本から近いグアムであれば、滞在期間を長めにして、平日はグアムで仕事を行い、週末は家族で観光を楽しむといった多彩な滞在の形ができるかもしれない。
金子:ワーケーションについてはホテルにとっては長期滞在してもらえるというメリットがある。また、長期滞在により消費が拡大し、経済に貢献するという部分でも有益なのではないかと考えている。グアムは日本からも3時間あまりで行くことができる。うまくオンとオフを切り替えて楽しんでもらえる身近なデスティネーションとしてグアムが選ばれるきっかけとして、ワーケーションに関しては興味深く注目している。
(写真提供:グアム政府観光局)

※編集部注:本記事の座談会は2020年6月18日に開催されたものです。

 

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