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2018.07.02

アウトバウンド振興に相当額の予算を

 日本旅行業協会(JATA)通常総会が終わった。今年の総会で一番印象に残ったことと言えば、来賓の挨拶で、「アウトバウンドの重要性」を指摘する話がやけに多かったことだ。
 観光庁の田村明比古長官は、「アウトバウンドマーケットは久しぶりに1800万人台を実現できる状況。日本人のお客様に旅行を伴う自己実現や社会貢献のための多様な活動の魅力と長めの休暇でゆったり過ごす新しいライフスタイルを積極的に提案してもらいたい」と語った。
 田村長官はJATAがアウトバウンド主体の団体であることはよく分かっているから当然としても、石井啓一国土交通大臣も「政府は観光先進国をめざす上で、インバウンドの拡大とともに、日本人自身もこれまで以上に積極的に海外へ出掛け、諸外国との双方向交流により相互理解を深め、日本を真に世界に開かれた国にすることが重要と考える」とアウトバウンドの重要性について言及した。
 また、秋元司国土交通副大臣も昨年はナイトエコノミーの話で終始していたが、今回はいきなりアウトバウンドについて触れ、政府もアウトバウンドに対して理解してくれているのかなと思った。
 しかし、菅義偉内閣官房長官は、安倍政権の観光立国の実績について語り、インバウンドの拡大が25年ぶりに地価の上昇を招いたと述べて、会場から拍手を受けた。旅行会社には「外国人に魅力あるツアーを組み発信してほしい。政権として2020年4000万人、2030年6000万人の目標を実現できるような環境整備をしっかりと行うことをお誓いする」と述べた。
 菅官房長官は誰しもが認める実力者である。JATA総会後の懇親会なんだから、少しはアウトバウンドのことにも触れてほしいものだ。
 7月に入り、既に8月末の概算要求まで2カ月を切っている。観光庁の2019年度予算にアウトバウンド予算は入るのか。口先だけで、「アウトバウンドは重要、双方向交流は大事」と言われても、「実」がなければ、何の意味もない。
 観光庁の瓦林康人審議官は、JATAアウトバウンド促進協議会(JOTC)の全体会議で、観光の「不均衡」是正に向けて「二国間関係を発展させるためにもアウトバウンドの意味合いが重要になってくる」とアウトバウンドの重要性を指摘した後、「来年1月から徴収する国際観光旅客税(出国税)の日本人の受益について、「受益と負担の関係から負担に見合った受益が必要で、今後の予算編成のプロセスの中で議論される」と述べ、国際観光旅客税導入によるアウトバウンドに対する新たな予算措置について言及した。
 観光庁が立ち上げた「若者のアウトバウンド活性化に関する検討会」の最終取りまとめについては、「海外旅行だけでなく幅広く議論しており、報告書を近々まとめるが、海外旅行を観光、レジャーにとらわれない海外体験の場として、新しい切り口での海外旅行の見直しが求められている」と述べるにとどめた。
 ライフスタイルとか、体験の場とか、そういう話も大事だし、双方向交流の拡大、2国間の発展のための「観光不均衡」の是正という話もよく分かる。だから何をするのかということを聞きたい。
 このまま推移すれば、2018年の訪日旅行者数は約3300万人強、日本人海外旅行者数は1860万人を超える可能性が高い。そうなると、双方向で5000万人を超え、出国税は500億円以上にもなる。そのうち190億円近くを日本人が負担する。来年開始の徴収額はそれ以上になるだろう。
 アウトバウンドの重要性はもう分かった。それなら、2019年度の観光庁概算要求で、受益に見合う負担として、アウトバウンド振興に相当額の予算を計上することを求める。(石原)