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2021.01.18

【潮流】コロナ後は「第三の開国」へ

 1月12日にNHKのBSプレミアムで放映されたアナザーストーリーズ「夢の海外旅行が実現した日」は、海外旅行の自由化が日本に、日本人にどれだけ大きな影響を及ぼしたかを改めて認識させた番組だった。折しも、新型コロナウイルス感染拡大で、世界中が「鎖国状態」にある時に、こうした番組を放映してくれたNHKと番組制作スタッフ、出演者の皆さんに敬意を表する。
 番組は敗戦から復興、そして第2の開国と言われた1964年の海外旅行自由化、コロナ禍の只中にあってコロナ禍後に来るであろう第3の開国、3度目の海外旅行自由化を示唆するような内容だった。折しも、1964年と2021年は東京オリンピック・パラリンピックの開催年。1年延期とはいえ、2021年を海外旅行の復活年とするために、旅行業界は何をすべきかを問われているようだった。
 番組スタッフによると、自由に旅することができない今だからこそ、人々の瑞々しい体験を通して、海外を旅することの魅力をあらためて振り返り、コロナ危機によって苦境に直面する旅行業界の方々に少しでも勇気を感じてもらえたらと思って制作したという。
 本紙でも7年前の2014年3月31日号で、「海外旅行自由化50周年特集」を企画・発行した。当時のことを思い出しながら番組を見たのだが、やはり「原点回帰」の文字が脳裏に浮かぶ。
 2014年の海外旅行自由化50周年特集の時も、2021年の新年特集の時も、巻頭インタビューは菊間潤吾日本旅行業協会副会長にお願いした。いつの時も菊間氏は「旅行業の存在意義」について語る。「代理店」の発想を捨て去り、「旅行会社」の存在感を示すことを強調する。
 そして、海外旅行分野で蓄積した強みを成長分野に生かすことを具体的に提案している。2014年当時は訪日旅行、2021年は国内旅行への参入を旅行業界に提言した。とくに、コロナ禍で観光目的の国際往来が閉じられた状況では、リスクマネジメントのためにも他の旅行事業に進出することは必須かもしれない。
 しかし、緊急事態宣言が再び発出されて、国内旅行のGo Toトラベル事業は年末年始から2月7日まで全国一斉停止となった。海外旅行、訪日旅行とともに国内旅行まで再び閉じられた。
 旅行業として生き続けるためには、政府の支援を全面的に受けることが不可欠となる。雇用調整助成金の特例措置、緊急事態宣言下の一時金の給付、持続化補助金、事業再構築補助金、産業雇用安定助成金の活用もある。
 ただ、現段階では旅行業の先を見通すことは難しい。既に1月も半ばを過ぎ、3月期決算なら残りは2カ月。今期を乗り切っても、来期の計画を立てるのは至難の業だ。
 そうした中で、旅行会社は様々な事業に乗り出している。大手旅行会社の中には飲食業をはじめ事業の多角化に乗り出して「脱旅行業」を図るところも出ている。また、いち早くデジタル化、DX化を進め、オンラインビジネスに活路を見出すところも出ている。
 また、コンサルティングに強みを持つ旅行会社の中には、結婚、就職などの新たなコンサルティングに進出する会社もある。さらに、海外、国内の現地に太いパイプをも持つ会社は、人流から物流へ商社的な事業に参画する会社も現れている。コロナ禍でPCR検査や除菌機器などの分野に乗り出した会社もある。
 旅行会社が旅行業で培った
ノウハウ、強みを生かして、旅行だけでなく、新たな事業に進出する。政府もそれを協力に後押ししている。旅行業が会社の一部門になるところも出てくるかもしれない。
 それでも、来たるべき「第三の開国」の時には、海外旅行が再び「成長産業」になる。その時には、生き抜いた旅行会社が最大の強みを発揮することになるだろう。(石原)