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2019.07.08

問答無用の官邸主導

 日本旅行業協会(JATA)と全国旅行業協会(ANTA)の通常総会が終わった。今年の総会は参議院選挙が近いこともあって、政治色が強かった。以前は、与野党の参加があったように思うが、近年は与党一色の傾向が強まった感がある。これも時代の流れか。
 そうした中で、JATAの総会後の会場に現れた菅義偉内閣官房長官は、訪日観光のインフラ整備に言及し、新宿御苑が午後4時半に閉園することに触れて、職員が午後5時に帰るためだとして閉園時間の延長を決めたことを披露した。
 訪日外国人旅行者が増加する前は、新宿御苑は新宿区民、東京都民の憩いの場で、閉園時間も「もう終わりか」程度に思っていなかった。それが、入園料が安く、都心にあることから、訪日旅行者が急増した。職員は外国語が分からないので、外国人を無料で入場させたことが後で発覚し、杜撰な対応が問題になった。
 政府・観光庁が「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、訪日外国人の2020年4000万人、2030年6000万人の目標を設定して、施策を進めているが、都心でさえも、観光立国推進の意識はなかなか浸透しないのが現状だ。
 菅長官は、挨拶で今度は空港問題にも触れた。中部経済界が菅長官に対して、中部空港が中国からの週50便乗り入れの要請をグランドハンドリングの対応能力を理由に断ったことを話した。菅長官は驚き、全国の空港を調査したら、グランドハンドリングの問題で週150便が乗入れできなことが分かったという。
 菅長官は、航空局に対してこの問題を「厳しく指摘した」と語ったが、実際には相当「怒った」のではないか。官民一体で観光を推進しているときに、こうした対応は許されないというような印象を受けた。
 官邸主導の一端を垣間見たが、JATAの会場でのリップサービスもあったのかもしれないが、菅長官の「観光ファースト」の想いが「炸裂」したような挨拶だった。
 菅長官の「観光ファースト」はあくまでインバウンドで、長官の意識には「双方向交流」はあまりないように思うが、そこは石井啓一国土交通大臣と田端浩観光庁長官が常に言及しており、日本の観光政策は「官邸の力を借りながら双方向交流を進める」といった状況に感じられる。
 インバウンドのためであろうが何であろうが、供給量が増えないことには、アウトバウンドも限界が見えてくる。まずは供給量を拡大することが求められる。その意味でも、「できません」ではなく、「できるように改善する」ことを求める菅長官の方針は、官邸主導の良い面と言える。
 一方で、逆の部分もある。訪日プロモーションに対する日本政府観光局(JNTO)とDMOの役割分担は、その強引さが目立つ。十分な話し合いもなく、こうしたことを一挙に決めてしまうことも官邸主導の一方の現れだろう。
 また、観光への波及が気になる問題としては、G20サミット閉幕直後に日本政府が、韓国向け輸出管理の運用見直しを発表したことだ。ハイテク素材の輸出審査を厳しくし、韓国を「ホワイト国」から除外する。
 韓国では日本の措置を徴用工問題の経済報復と受け止め、対抗措置も取り沙汰される。観光への影響としては、韓国からの訪日旅行の自粛が懸念され、日本からの訪韓旅行も影響を受ける可能性もある。
 政治問題が経済問題に波及し、観光にも影響を及ぼすかもしれない。これまで、政治課題があっても、日韓の観光交流人口が増えたのは民間レベルの努力の賜物だが、今後の動向ではそれも不透明な状況だ。
 韓国経済どころか日本経済にも跳ね返り、観光交流にも影響しかねないと分かっていながら、政府は韓国向けの輸出管理の運用見直しに踏み切った。熟慮を重ねた上での措置なのか、それとも問答無用の措置なのか。落とし所があるのか、決着するのか、注視するしかない。(石原)