記事検索はこちらで→
2022.09.21

WING

第161回「日本が危ない」求められるのは必ず勝てる力だ

今さら設置する有識者会議
政治が結果出せるか注目

 

 年末に向けて防衛費の増額やその財源が焦点となるなか、首相、岸田文雄はこの問題に関する有識者会議を新設すると表明した。同じく年末にまとめる国家安全保障戦略など3文書の改定に際しては、国家安全保障局(NSS)がすでに個別に聴取し、有識者会議は設置しないことになっていた。3文書改訂作業と並行して有識者会議の設置が決まったのは財務省側の提案による。主導権が財務省に移りそうな情勢になっているなかで、政治には大幅な防衛費増という結果を出すことが求められる。
 東京・永田町の首相官邸の中枢部は首相執務室、首相応接室、官房長官室、官房副長官室が並ぶ5階にある。首相補佐官らの執務室は4階にあり、エレベーターや階段で5階との間を行き来する。そうした中枢部からは離れた2階に新たな“住人”が入った。前防衛事務次官の島田和久である。9月1日付で内閣官房参与に起用された。
 島田は7月までは防衛費増額などで防衛省側の司令塔だった人物である。7月に銃撃されて亡くなった元首相、安倍晋三の秘書官を約6年半務めた島田は、防衛費の対GDP(国内総生産)2%以上を主張した安倍と連動する形で、議論の旗振り役を務めていた。ところが、岸田は「次官の在任は2年間が通例」との“原則”を盾に島田の続投を認めなかった。安倍や当時の防衛相、岸信夫が続投を望んだにも関わらずだ。岸は引き続き協力してもらおうと、島田を防衛相政策参与という役職に就けた。
 岸は足に不具合を抱え、車いすでの移動を余儀なくされていたこともあり、8月10日の内閣改造で交代し、浜田靖一が防衛省に乗り込んできた。浜田が真っ先にやったことは島田を退職に追い込むことだった。参与を就任早々いきなり外すのはどの省庁でも行われたことがないほど異例の人事だった。
 これには理由がある。浜田は安倍の政敵だった元幹事長、石破茂と行動を共にし、安倍には批判的だった。一時石破からは離れた時期もあったが7月末に一緒に台湾を訪問するなど仲の良さを見せた。浜田から見れば安倍に近い島田の存在は不愉快だったようだ。

 

国葬・教会に揺れる政権
積み上げにこだわる大臣

 

 これに驚いたのは岸田だった。島田の続投を認めなかったことで安倍らの反発を招いた。ある政府当局者は「それまで順調だった岸田政権の歯車が狂い始めたのは島田人事からだった。気に入らない人物は強引に外す政権だという印象が広がった。その後の国葬や旧統一教会をめぐる混乱をみても、永田町や霞が関の反応は冷ややかにみえる。自分の力を過信した結果、かえって求心力を失った」と語る。

 

歳出予算の伸び率 単位:兆円(提供:防衛省)

お試し価格で全文公開中