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2026.02.10

ウイングトラベル特集

【潮流】観光立国を支える人材循環

 1月30日、国土交通省の交通政策審議会観光分科会が開かれ、2026年度からの観光立国推進基本計画の素案が示された。素案では、インバウンド受け入れと住民生活の質の確保との両立、国内交流・アウトバウンドの拡大、観光地・観光産業の強靭化の3点を柱に、今後取り組むべき政策の方向性や目標値が整理された。
 冒頭に掲げられた基本方針では、観光をわが国の「戦略産業」として持続的に発展させていくためには、観光が地域住民に裨益し、観光地の持続的な発展につながる姿を示し続けることが重要だとした。その積み重ねによって、観光が日本の魅力や活力を次世代へ継承し、発展させていく存在となることを目指すとしている。量的拡大のみならず、地域社会の理解と納得を伴った成長が求められていることを改めて示した形だ。
 では、その実現に欠かせない要素は何か。観光を支える人材の循環を生み出すという観点で、観光産業への関心を育てる教育の役割は大きい。旅は人の心を高揚させ、非日常の体験や人との触れ合いは強く記憶に残る。そうした経験を「多くの人に届けたい」と感じた人が、将来の仕事として観光産業を選び、学びを深めていく。入口を広げる仕掛けは、産業としての厚みをつくる起点となる。
 しかも人材は、単なる労働力ではない。地域の魅力を編集し、サービスの質を高め、住民や事業者の合意形成を進める担い手でもある。人材が育てば、インバウンド受け入れと生活の両立にもつながり、観光地・観光産業の強靭化を下支えする力となる。
 こうした視点で注目したい動きが相次いでいる。1つは、日本観光振興協会が小田急グループ、多摩大学と連携して実施した「小田急子ども観光学講座」だ。小学生28人が参加し、顔はめボードを使ったプレゼンテーションで旅行企画を考えるなど、体験型の学びを通じて沿線観光と、それを支える観光産業への理解を深めた。子どもたちが地域資源を「自分ごと」として捉え、誰に何をどう伝えるかを考える過程は、観光が本来持つ創造性を体感させるものだ。将来の職業選択に直結しなくとも、地域への誇りや来訪者へのまなざしを育み、住民側の受容性を高める効果も期待できる。
 もう1つは、ファッションデザインなどの専門学校を運営してきたバンタンが、観光分野に特化した新たなスクールを2027年4月に開校すると発表したことだ。海外で就業しながら語学を学ぶワーキングホリデーをカリキュラムに組み込み、即戦力人材の育成を狙う。現場の接客や運営を経験し、異文化環境で培ったコミュニケーション力を持ち帰らせる設計は、観光が国際産業であることを踏まえた打ち手といえる。賃金水準や働き方の改善といった構造課題は残るものの、キャリアの見取り図を具体的に示そうとする点は評価できる。
 前者は関心醸成、後者は職業教育という入口と出口を補完し合う取り組みだ。観光が基幹産業として成長しているとの指摘が強まる一方、名実ともに基幹産業として定着させていくには、担い手に「憧れ」を抱かせる環境づくりが欠かせない。憧れは偶然に生まれるものではなく、仕事の社会的意義や専門性、成長の道筋が可視化されたときに、職業として選ばれる。
 現実には、コロナ禍で産業の脆弱性が表面化し、人材流出が進んだ結果、人手不足が顕在化した。観光流動が世界的に活発化すると見込まれる中でも、わが国の観光関連産業は人材不足傾向が続いている。だからこそ、観光の価値を伝え、仕事としての魅力を可視化する草の根の取り組みは重要性を増す。学校教育、地域の事業者、DMO、自治体が連携し、現場見学や職業体験、探究学習、地域課題解決型のプロジェクトを積み重ねることが、長期的な人材循環を支える基盤となる。
 こうした人材育成の積み重ねは、住民生活との両立への理解を深めるとともに、国内交流やアウトバウンドの裾野を広げ、3本柱それぞれの実効性を高めることにもつながる。行政の計画と現場の試行をいかに接続し、成功例を横展開していけるかが問われている。
 2030年の観光のあるべき姿を追い求める出発点に立ついま、観光産業の印象を高める方策について、議論をもう一段深めていく必要がある。(嶺井)