ウイングトラベル特集
【潮流】旅行需要期を見つめ直す
師走を迎え、2025年もラストスパートとなった。年齢を重ねるとともに月日の速さを感じさせられることが増えてきたが、良い流れで新年を迎えられるよう、残りの1カ月を健康に留意しながら過ごしていきたい。
師走の業務・学業を乗り越えた先には年末年始の休暇が待っている。そのような中で旅行会社各社から年末年始期間の旅行動向が相次いで発表された。
JTBはこの年末年始期間(12月20日~2026年1月5日)に3987万人が国内外で旅行に出かけるという推計値を発表した。このうち、海外旅行者数は31.5%増の100万人、国内旅行者数は2.0%増の3886万人になるとした。
このうち国内旅行については近場で短い日程の旅行が増加基調であるとともに、自然やグルメ、温泉などで心身を整えながら過ごす家族旅が増加すると分析した。
一方で、海外旅行については、4~6泊の期間でハワイや欧米など遠距離方面の旅行が増加する見通しである指摘した。
この年末年始はカレンダーの日並びも良く、長期間の旅行に出かけやすい日程となっているのは間違いないだろう。
ただ、海外旅行の予約状況を見ると、日並びの良い年末年始にも関わらず、これまでとは少し異なる動きが出ているようだ。
阪急交通社が発表した年末年始の旅行動向を見ると、海外旅行の集客数は前年比10%減となっているという。また、エイチ・アイ・エス(HIS)の予約動向を見ると、対前年比0.9%となり、微減とは言え前年を下回る動きとなった。
阪急交通社による今年度の海外旅行集客数は前年度比16%増で推移しているが、年末年始に限るとマイナスという結果になった。この動きについて、大型連休は現役世代の需要が大きくなる傾向にあるが、やはり、物価高の影響は否定できないと分析した。
費用面の負担増はデータにも表れている。JTBによれば、今年の年末年始の旅行予定費用は前年比8.7%増の27万5000円と、2000年以降で最高額になった。為替は依然として円安基調で、航空券・ホテル料金の上昇は2026年以降もしばらく続く可能性が高い。旅行会社にとっては、この厳しい環境の中で「27万5000円に見合う満足度」をどう提供するかが問われている。
ここで必要になるのは、単なる価格訴求ではなく、旅行会社側が企画に込めた“熱量の可視化”ではないか。旅の魅力がSNSで拡散される時代において、インフルエンサーの影響力は大きいが、多くは体験そのものの面白さを切り取るにとどまり、「旅行会社がどこに知恵を絞ったか」「なぜその行程なのか」という文脈までは伝えきれていない。業界の知見を理解しつつ、費用対効果や企画意図まで踏み込んで紹介できる“旅行業界に寄り添うインフルエンサー”がいれば、旅行会社の存在価値を再定義するきっかけになるだろう。
同時に、需要の一極集中を避ける「休み方改革」も避けて通れない。連休の分散取得をめぐっては行政も一定の動きを見せているものの、企業側の事情や労働慣行が複雑に絡み合い、実効性のある制度に至っていない。年末年始のような大型連休に需要が集中する構造が続く限り、旅行価格の高止まりや混雑は解消されない。連休制度そのものの見直しを含め、より柔軟な休暇設計が可能になる仕組みづくりが必要だ。
旅行・観光に携わる企業側にも役割がある。旅行会社や観光事業者が率先して“多客期以外の休み方の理想像”を描き、それを商品企画や発信の中で提示していくことで、消費者側に新しい休暇の価値観を浸透させることができるはずだ。たとえば「混雑を避け、価格も抑えつつ、より深い体験を得られる旅」というメッセージは、多様な働き方が広がる今だからこそ一定の訴求力を持ち得る。
2025年の締めくくりを迎える中で、物価高や円安といった環境要因に翻弄され続けるだけでなく、旅行業界・行政・企業・消費者のそれぞれが「どう旅と向き合うか」を考え直す時期に来ている。慌ただしい師走だからこそ、一度立ち止まり、休み方の再設計と旅の価値の再確認を行う心の余裕を持ちたい。来たる2026年が、より豊かで持続的な旅行の一年となるかどうかは、今この瞬間の意識の持ち方にかかっている。(嶺井)
