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2018.08.27

JAL、LCCに「再挑戦」

 全日空(ANA)に続き、日本航空(JAL)もLCC事業に本格的に参入する。大韓航空、アシアナ航空、シンガポール航空などのFSCは傘下のLCCが日本路線を含むアジア路線を運航しており、とくに、アジアの中距離LCCが成長していることからLCCへの進出を決めたようだ。
 ANAは2月に発表した「2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略」で、両社の連携を強化して、LCC事業をANAグループの中核事業の一つに成長させる方向性を示した。Peach Aviation(ピーチ)を子会社化し、ピーチを基盤に、バニラ・エアと2019年度末を目途に統合させる。
 ANAはエアアジア・ジャパン、バニラ・エアとLCCの経営を続けてきたが、黒字化が難しく、一方で、ピーチは2014年度以来黒字化を続け、既に累積赤字を一掃しており、LCCとして日本でも最も成功したビジネスモデルであり、ピーチを成長の柱の一つに据える。
 JALはどうなのか。2月末に発表した20年度までの中期経営計画では、LCC設立の発表はなかった。運航出身の植木義晴社長が会長に退き、整備出身の赤坂裕二社長の就任後に、国際線中距離LCCが「挑戦の一つ」として設立が決まった。
 7月末にはLCC準備会社「ティー・ビー・エル(T.B.L.)」を設立、2020年度夏期スケジュール開始の3月29日から成田−アジア、欧米の中長距離路線の就航を計画している。
 ANAもJALも、LCC事業ではコスト倒れを経験しており、今回もどうなるかは予測できない。米国航空会社はLCC事業から撤退しており、日本のANA、JALの事業形態はアジアよりも米国に近いことから懸念がつきまとう。
 ピーチはバニラ統合後の2020年度に向けて、航続距離の長いA321LRを2機発注し、中距離路線に参入する。ANAから役員・社員を派遣したりせずに、ピーチの独立性を維持していけば、成功の確率は高くなる。
 JALのLCC中長距離会社の経営はどうだろうか。LCCビジネスのプロフェショナル経営者を招聘することが必須条件と考える。JALの役員・管理職者にLCC経営のノウハウはない。トップの経営者から幹部、事務職、運航・整備の技術職に至るまで、JALとは全く別のLCCを設立することが望ましい。
 設立準備段階はそのためのものだが、現状を見る限り、JAL社員の出向でLCCがスタートしそうだ。とくに、JALが以前にリストラしたパイロットや客室乗務員をLCCに採用するという報道もあり、これが事実とするなら、赤坂社長の語るLCCが「挑戦の一つ」となるのは難しいと危惧する。
 LCC中長距離会社は、確かに成長事業の一つだ。スクート、ノックスクート、エア・アジアなどが日本−アジア、日本−ホノルルと結ぶ。今後もアジア経済が成長し、訪日旅行者が拡大を続ければ、間違いなく、中長距離LCC路線は成長する。
 訪日インバウンドも去ることながら、現状2000万人に届かない海外アウトバウンドも、LCC中長距離路線の拡大で、新たな市場が生まれることも期待される。
 それだけに競争も熾烈を極める。海外のLCCを見ると、低運賃を実現するために、極限までにコストを切り詰めている。この経営方針は同じ航空会社だが、FSCとは対局にある。
 ジェットスター・ジャパンは、ジェットスターが経営しているから運航を続けているのではないか。LCCの経営はLCCを知るものにしかできないと考える。
 日本の航空会社も最近は、イールドマネジメントが徹底化されているが、それでもFSCとLCCの経営は根本的に異なる。「JALならではのLCC、JALらしいLCC」は存在しない。JALがそれにこだわると経営は難しくなるのではないか。
 ANA、JALのLCC中距離会社の競争相手は双方ではない。先行するアジアのLCCだ。これまでの失敗を糧に、成功を期待する。(石原)