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2018.05.29

WING

陸自、AH-64D墜落事故で中間報告、調査は継続

ボルト破断からローター・ブレード脱落と概定

 

 陸上自衛隊は5月28日、今年2月5日に発生したAH-64D戦闘ヘリコプターの墜落事故調査中間報告をとりまとめ、墜落原因をNo.4メイン・ローター・ブレードとローター・ヘッドを繋ぐ部位ストラット・パックを接続するアウトボード・ボルトの破断により、No.4ローター・ブレードが機体から脱落、急激な揚力損失から墜落に至ったと概定している。引き続きボルトがなぜ破断したのかの調査が必要なため、陸自では通常事故発生後4ヵ月以内とされる防衛大臣への事故報告書の提出期限を延長し、調査を継続して行く。
 再発防止策としては当面、陸自が保有する12機のAH-64D全機について、製造企業が品質を保証したアウトボード・ボルトへの交換などを検討している。今後、事故原因を細部解明した後、再発防止策を確立することになる。

 

操縦士操作、整備員整備の起因を否定
メンテナンス・データ・レコーダーに異常データなし

 

 今回、事故調査委員会(委員長・高田克樹陸将)では、関係者からの聞き取り、、MDR(メンテナンス・データ・レコーダー)の解析結果、破断面調査などを行った。その結果、操縦士の操縦および整備員の整備に起因するものではないとした。操縦士の操作に起因しない理由は関係者からの聞き取りとMDRの解析結果などから、整備員の整備に起因しない理由としては、事故機の整備、検査に問題は見られず、陸自の整備員はメイン・ローター・ヘッドの交換時に当該ボルトに触れていないためとしている。
 MDRの解析では、データが終了する直前5秒間に事故につながるような対気速度(前後・左右・上下)、気圧高度、メインローター回転数の異常はなく、操縦士の急激な操作や機体の不具合などはなく、通常の飛行状態から突如事故に至る事象が発生したことが確認されたという。また、操縦士の会話記録にも異常を示唆する内容はなかった。これらから、操縦士の操縦が原因ではないとしている。なお、MDRは墜落に至る詳細な分析の結果、墜落前にNo.1ローター・ブレードがキャノピー(風防)に接触した際に配線が切断し、以降の記録が残っていないという。

 

No.4、No.1ブレードが脱落
揚力失い自由落下で墜落

 

 一方で、機体の損傷状況や飛散状況等の調査結果から、調査委委員会では墜落に至るメカニズムを次のような仮設シナリオとしてまとめた。
 No.4メイン・ローター・ブレードの分離→No.1メイン・ローター・ブレードが下がる→No.1メイン・ローター・ブレードとキャノピーが接触→No.1メイン・ローター・ブレードの分離→マスト・ベースの破壊、No.3メイン・ローター・ブレードによる左ウイング(固定翼)の破壊、No.3メイン・ローター・ブレードとキャノピーの接触及び停止→機体の自由落下
 AH-64Dのメイン・ローター・ブレードは4枚あり、このうちNo.4ブレードが最初に脱落し、ローターは左回りのため飛行経路から左側約350メートル離れた位置で発見された。次いでNo.4ブレードの90度左側に位置するNo.1ブレードは、回転面が下がって自機のキャノピーに衝突した。キャノピーにブレードの塗料が付着し、ブレードの後縁部にキャノピーの幅と同じ130センチの破壊が見られた。この衝突の衝撃でNo.1ブレードのストラップ・パックごと根元から破断し、飛行経路直下で発見されている。No.2、No.3ブレードはローターヘッドから脱落せず、機体の墜落現場で発見されている。
 No.4メイン・ローター・ブレードの脱落に至る経緯は次のように説明されている。ローター・ブレードとローター・ヘッドを繋ぐ部分にはY字型のストラップ・パックと呼ばれる部品が介在している。ストラップ・パックは薄い鋼板のラミナーを重ねた構造となっている。ストラップ・パックとブレードを接続しているのが、今回原因とされる1本のアウトボード・ボルトである。ローター・ヘッド側とストラップ・パックは2ヵ所でインボード・ボルト2本により接続されている。アウトボード・ボルトの役割はストラップ・パックを構成するラミナーをアウロボード・ナットと上下から挟んで固定するものとなっている。
 今回の事故ではこのアウトボード・ボルトが破断した結果、上下からの締め付け力がなくなり、約6ミリの間隔が発生、各ラミナーの間に間隔ができ、薄い鋼板のラミナーに不均等に力がかかったため、遠心力に耐えられずにラミナーが破断した。これにより、No.4ブレードがメイン・ローターヘッドから分離し、機体は揚力を失って自由落下となり墜落した。
  事故調査委員会には今回、幅広い観点から事故原因等の検討・分析のため特別に民間の航空工学等の有識者が参加している。

 

搭乗員2名が殉職、AH-64Dは飛行停止中
住民1名負傷、3棟が火災など被害

 

 事故は2018(平成30)年2月5日、午後4時43分頃、陸上自衛隊目達原駐屯地の第3対戦車ヘリコプター隊所属のAH-64Dが定期整備後の試験飛行中に目達原駐屯地の南西約6キロメートルの地点に墜落、搭乗員2名は殉職、住民1名が負傷、建物3棟が火災、その他建物8件に被害などが発生した。
 事故後、陸上自衛隊ではAH-64D全機を飛行停止中となっている。
 なお、防衛省では28日、大野敬太郎防衛大臣政務官らが佐賀県を訪問し、佐賀県副知事、佐賀県議会議長、神埼市長、吉野ヶ里町長、上峰町長を表敬訪問し、事故調査概況を説明している。

※写真=陸上自衛隊のAH-64D同型機(提供:陸上自衛隊)