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2019.08.19

WING

F-35A事故調査提出、パイロット回復操作の可能性も

急降下時に警報、衝突直前わずかに角度緩やかに

 航空幕僚監部は8月9日、F-35A墜落に関する事故調査委員会がまとめた報告書の概要を発表した。それによると、事故機を操縦していたパイロットは、空間識失調に陥り有効な回復操作が行われないまま墜落したと見られていたが、速度警報および衝突回避指示によって回復操作を試みたものの、間に合わずに墜落に至った可能性もあることが分かった。これは、シミュレーターでの検証によって警報の作動を確認したことと、海面への衝突直前で事故機の姿勢が変化していたことが明らかになったため、パイロットが機体の急降下に気付き、回復操作を行っていた可能性もあるという。
 説明を行ったのは空幕の監察官。事故が発生した今年4月9日からおよそ4ヵ月間、航跡情報、データ・リンク情報、交信記録、聞き取り情報に加え、三沢基地のシミュレーターを用いた検証結果を踏まえて、事故に関する分析を行ったとのこと。各種情報から得た事故機の機動や姿勢、速度などをシミュレーターで再現したところ、高度2万フィート(約6000メートル)付近で速度警報が作動し、降下率が時速約1100キロに達した高度約1万フィートから6000フィート(約3000メートルから1800メートル)で衝突回避指示が作動した。それらの警報については、パイロットも認識していた可能性が高いという。
 事故機はこのとき、左急旋回・急降下を実施していて、海面へのダイブ角が約60度という急降下姿勢となっていた。速度警報が作動し、地上管制から左旋回の指示を受けた時点では、「訓練中止」と返答して、約60度のダイブ角を継続するも、機体はさらに旋回。衝突回避指示が作動したときには、機体が左方向へ約90度方向を変えていて、ダイブ角が約50度から60度と、浅くなった状態で海面へ衝突したと推定される。そのため監察官は、パイロットが警報を聞いた上で姿勢の回復操作を行った可能性があることを示した。
 また空幕は、この事故が機体の不備によって発生した可能性が低いとしている。その根拠の一つとして、墜落機破片の散乱状況を挙げた。機体の部品は海底に広く散乱していたが、事故機が最終的に機首を向けた北側に向かって破片が伸びていたとのこと。これは事故機のエンジンが高速で回転し、推力を持った状態で海面へ衝突したことを意味するという。事故機は正常に動き、コントロールできる状態だったからこそ、機体自体が細かく飛散したのだという。

 

降下開始直後から空間識失調か
計器から目を離しズレ生じたと推定

 

※図=このたび発表した事故概要。警報作動後に機体姿勢に変化(提供:航空幕僚監部)

※写真=空間識失調の訓練を改めて徹底することで、再発防止に努める