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2019.08.26

多極化する国内旅行

 5月から毎月、1週間程度の海外取材をしていたので、8月は夏休みを利用して国内を旅した。繁忙期ということから航空機、鉄道などの運賃が高いため車で行く。この時期の高速道路は大渋滞だが、家族で出掛けるとなると、移動手段だけで大金が飛ぶのは割りに合わないと思う人が多いのか、宿泊した施設の駐車場はすべて満車だった。
 今回は新潟に三泊し、それぞれ個性のある旅館を選んだ。最初に宿泊した旅館は「日本秘湯を守る会」に加盟する古くからの旅館で、温泉もしょっぱくて個性的だ。ここの会員旅館の中には、温泉に自信があるからなのか、独善的な所が見受けられ、あまり利用しないのだが、最近は旅行会社とタイアップして、ツアーも企画しているので、どういう状況なのか知りたくなって宿泊してみた。
 建物は重要有形文化財、古いからこそ情緒があり、それはいいのだが、インフラ部分は時代に合わせて取り入れてほしい。今回は、現金を使わずに地方でどれだけ旅行できるかも、テーマの一つにしていたのだが、いきなりの現金精算で挫ける。
 新潟は高速道路から離れて地方へ行くほどに、日本の原風景が残る。日本最大の米どころだけに、山間の棚田や平野の水田地帯、さらに飯豊・朝日・越後・妙高・飛騨山脈に連なる山岳地帯、日本海の海岸線など多くの観光素材がある。大型の飲食・物産・土産物施設はキャッシュレスが増えたが、中小の観光施設はまだまだ。Wi-Fiは進んできたが、多言語とキャッシュレスは課題が多い。
 日本の地方全体に言えることだが、訪日旅行を誘致するなら、少なくともクレジット決済の導入は最低条件ではないか。米国では、ソフトドリンクの自動販売機もクレジット決済できる。新しい決済手段が続々と出ているが、それはそれとして、「世界標準」のクレジットカード決済の地方浸透が急務だろう。
 今回の旅行では、行く先々で旅行者に旅行先を何で選ぶか聞いてみた。思いのほか、クチコミで決める人が多い。40歳前後の家族連れの人達が多かったが、その層はトリップアドバイザーやOTAのクチコミを見て判断するという人が多かった。予約はOTAが圧倒的。中には、会社の福利厚生で旅行会社の福利厚生サービスサイトから予約した家族もいた。その事例を除くと、国内個人旅行はOTAの独壇場だ。
 一方で、ほぼ同世代のシニアの家族連れにも聞いてみた。こちらは、同じクチコミでも、高級旅館・ホテルサイトで選ぶという答えだった。基準の目安は「4.5」以上。この時に宿泊していた旅館は、国内旅行業界紙が決める総合ランキングでベスト5に入るほどの老舗旅館で、高級旅館サイトでも評価は高いという。
 そのシニアの人は、年に1回、10日程度で国内を車で家族旅行しており、その経験から、利用するサイトで「4.5」以上の評価なら、ほぼ間違いないと語っていた。
 高級旅館サイトでクチコミ4.5以上の評価になると、それなりの料金は掛かる。新潟のその旅館は、本館は1人平均2〜3万円、別邸は平均5万円以上で、当然ながら別邸の評価はさらに高い。その家族は、今回は別邸が満室で本館に宿泊したが、次回は別邸に泊まるという。
 最近の旅館は差別化が顕著だ。それも特別室ではなくて、建物はじめ環境を差別化する。また、平均単価1泊5万円以上の高級旅館が増えており、旅行が二極化されている印象を受ける。
 日本社会は「一億総中流」と言われるほど、中流意識が長く続いた。今は格差は拡大しているだろうが、中心は中間層と思う。旅館の選択にしても「できるだけ安く」「そこそこ」「高くてもいい」に分かれたが、2万円を上限とする「そこそこ」の人が多かった。
 これらの三極に加えて、ある旅館に泊まった時は、ヘリポートがあって、羽田からヘリコプターで宿泊に来ていた。こうした1泊100万円でも宿泊する富裕層も増えている。富裕層を加えると四極化になるが、規制緩和、格差社会は旅行を多極化する。1泊5万円も使うなら海外旅行に行ったほうがいい。(石原)