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2018.06.05

WING

激化するコンステレーションビジネス、日本が勝つ道は?

 経産省、コンステレーション衛星時代見据えた技術戦略

 世界はいま、小型・超小型衛星を使った”コンステレーションビジネス”に熱い視線を送っている。大量に打ち上げた小型・超小型衛星を使って、これまでにはない精緻なサービスを提供することができるコンステレーションビジネス。昨今では衛星から得られるデータの質・量が抜本的に向上しつつあり、大量に取得する衛星データを様々な地上データと組み合わせ、それを人工知能(AI)などの技術を活用して解析することで、従来には無いような新たなサービスや価値創出が期待されるようになってきた。巨大な世界市場を牽引しようと、欧米を中心にコンステレーションビジネスに対する動きは急加速しており、宇宙産業を将来の基幹産業の一つとすることを目指す日本としても、もはや待ったなしの状況だ。
 経済産業省はこのほど、コンステレーションビジネス時代の到来を見据えた小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する報告書をまとめた。この報告書のなかで、小型衛星・小型ロケット向け部品・コンポーネントの研究開発を推進することのほか、小型衛星・小型ロケットの量産化を含む生産環境整備を推進、さらには軌道上における実証機会を更に拡充することなどが方向性として盛り込まれた。
 コンステレーションビジネスによる新たなソリューションの登場を促す要因の一つとして、技術革新による小型衛星の高性能化・低コスト化が挙げられる。2014年には東京大学が1辺当たりわずか50センチ四方、重量も約60キログラムという小型衛星を打ち上げることに成功。世界的にみてもOneWeb社が900基以上の超小型衛星を運用した低軌道通信衛星網を構築する計画を公表するなど、注目を集めている。
 こうした事例に留まらず、小型衛星を大量に打ち上げて一体的に運用するコンステレーションビジネスが世界的に進展しており、高頻度観測サービスなどといった、従来にはない付加価値を提供するビジネスモデルが世界的に急速に成長中だ。さらに、こうしたデータビジネスを支えるインフラとして、小型衛星・小型ロケットの量産化の実現に向けた取り組みも加速しているところ。
 そこで経済産業省は、日本としても今後拡大が予想される小型衛星・小型ロケットビジネスにおける日本の課題や求められる取り組みを検討するため、昨年年12月に、「コンステレーションビジネス時代の到来を見据えた小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する研究会」(座長:趙孟佑〔九州工業大学大学院工学部総合システム工学課教授〕)を立ち上げ、7回に亘って会議を開催してきていた。
 
 欧米で量産・低コスト化が急速に進行
 国内は拠点点在や実証機会不足に悩む

 研究会のなかでも、巨大なビジネスチャンスを掴もうと、欧米を中心として世界的な小型衛星向けの部品・コンポーネントの開発競争が激化していることが指摘。とくに欧米では部品・コンポーネントの量産化・低コスト化が進行。欧米にコンステレーション事業者のニーズが独占されることが懸念されるようになっていることのほか、価格競争が激しい小型衛星・小型ロケット向けの部品・コンポーネントは技術革新のスピードが速く、民生品の積極的な活用を含め、スピード感をもって開発を進める必要があるという。
 また、日本国内の課題として、小型衛星用の試験施設が国内に点在していることが挙げられた。一定程度拠点化された試験施設としては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターのほか、福井県工業技術センター、九州工業大学超小型衛星試験センターの3拠点があるものの、その他の試験施設は個別試験に留まり、必要な試験を一通り行うための各試験施設との調整コストなどが発生している状況だ。
 また、軌道上の実証機会が不足していることも課題として取り上げられている。部品・コンポーネントの販路を拡大するためには、軌道上における動作実績が不可欠。その実証にあたっては、部品などを衛星に組み込んだ上で打ち上げを行う必要があり、JAXAが革新的衛星技術実証プログラムを通じて2年に1回程度の機会を提供しているものの、更新頻度が高い民生品を利用した部品などの実証機会としては十分ではない。

 魅力的なサービス提供するミッション部開発を
 長納期品や小型ロケット構造効率向上も

 こうした様々な課題を抱えている状況において、研究会は報告書のなかに小型衛星・小型ロケット向け部品・コンポーネントの開発を推進すべきことを盛り込んだ。将来的に衛星システムが更に小型化することが進行することを見据えて、小型・超小型衛星と小型ロケットの部品・コンポーネントの研究開発を中心とした検討を行うべきとしている。
 なかでも、魅力的なサービスを提供することができる、センサ技術や通信技術などのミッション部の研究開発のほか、バッテリーや太陽電池セルなどの長納期部品の低価格・短納期化、さらには事業としての成立性までも加味し、例えば、量産化を見据えた設計や地上用途との併用することなどができる部品・コンポーネントなどの研究開発に取り組むことを求めた。さらに、CFRP構造材や慣性計測装置、自律飛行安全技術などといった小型ロケットの構造効率向上に向けた研究開発に取り組むことを盛り込んだ。

 量産化含む生産環境の整備を
 試験設備のワンストップサービス提供

 また、研究会では小型衛星・小型ロケットの量産化を含む生産環境整備の推進にも言及。民生分野における量産化技術の小型衛星・小型ロケット分野への適用を推進すると共に、民生分野において蓄積された量産化に係る設計手法・ノウハウなどを、小型衛星・小型ロケット生産への活用を推進すべきことを方向性としている。
 さらに、小型衛星製造における一連の試験実施のためのコスト低減のため、既存設備も活用しつつ、試験施設の情報提供、施設利用のコーディネート・スケジュール調整、必要機器の貸出などを含むワンストップ・サービス提供に向けた取り組みを推進すべきことも強調した。

 ISSからの放出枠組や国産小型ロケット活用
 超小型衛星搭載民生部品データベース構築も

 加えて、軌道上実証機会の更なる拡充に関しては、政府関与の下で、市場における競争力がある部品・コンポーネントを搭載した超小型衛星を製造し、国際宇宙ステーション(ISS)からの放出の枠組みも活用しながら、軌道上実証機会の更なる拡充に取り組むべきことを指摘。中長期的には、打ち上げ手段として日本の小型ロケットの活用も視野に入れた検討が必要との見方を示した。
 また、こうした機会を通じて実証された部品・コンポーネントは、その実証結果を超小型衛星搭載民生部品データベースに反映して、継続的に情報を更新する仕組みを構築すべきことを提案した。