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2018.03.26

FSCにLCC経営は難しい

 ANAホールディングスは3月17日に各社が一斉に報道した連結子会社のLCC、Peach Aviation(ピーチ)とバニラ・エアの統合について、「様々な検討を行っていることは事実だが、現時点では決定した事実はない」として、ANAが発表したものではないことを強調した。
 ANAは、今年2月1日に発表した「2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略」で、両社の連携を強化して、LCC事業をANAグループの中核事業の一つに成長させる方向性を示した。
 ピーチは2011年にANAと香港のファーストイースタン・インベストメントグループの共同出資で設立、2012年に就航した。就航5年目の2017年にANAホールディングスが37.8%から67%に出資比率を引き上げ、連結子会社化した。
 一方で、ANAは2011年にエアアジアと提携してエアアジア・ジャパンを設立、2012年に就航したものの、2013年にバニラ・エアに社名変更して再スタートした。
 ピーチは井上慎一CEOの経営のもと、ANAの関連会社ではあったものの、LCCとして一からスタートし、LCC経営の絶対条件である低コストの徹底と低価格、スピード感のある路線拡大で成長を続けてきた。
 それに対して、エアアジア・ジャパンは、ANAと提携先のエアアジアの連携が必ずしもうまく行かず、結局、袂を分かった。JALとジェットスターの提携によるジェットスター・ジャパンのように、ジェットスターが経営を主導すれば変わっていたのかもしれない。
 エアアジア・ジャパンから再スタートを切ったバニラ・エアは、リゾート路線を中心に路線拡大を進めているが、台湾・香港線の供給過多などで、黒字経営にまで至っていない。根本の問題として、FSC(フルサービスキャリア)のANA主導によるLCC(ローコストキャリア)の経営は難しいと思わざるをえない。
 逆に言えば、ANA保有の株式が38.7%で、関連会社であっても連結子会社でないピーチは、ANAの「シガラミ」がないことが成功要因の一つかもしれない。
 JALもかつては、タイ人のキャビンアテンダントを採用したりして、コスト削減によるLCC系の子会社を運営していたが、大きなコストダウンにはならず、結局は撤退した。米系航空会社も同様だが、FSCにLCCの経営は難しいということではないか。
 ANAホールディングスの片野坂真哉社長は、ピーチを連結子会社化した時の会見で、「ピーチの企業文化・ブランドを生かし、独自性を尊重しながら、第二の創業期として成長を加速するべくサポートしていく」と述べ、「ピーチが国内・海外拠点の拡大をさらに推進し、日本を代表するLCCとして市場をけん引する」ように支援していく考えを示した。
 とくに、ANA、ピーチ、バニラの位置付けについて、「3社で事業ポートフォリオの最適化を進め、3社の路線計画を共有化し、グループ全体の路線計画を決定していくためのスキームを作成する」と述べている。
 この時点で、いずれはピーチとバニラは統合するとの観測も流れいたが、片野坂社長は「ピーチは関西空港を最大の拠点に、那覇空港、仙台空港などの拠点化を進める一方、バニラは成田空港を拠点とするなど、それぞれでベースも違い、それぞれの個性を生かしながら路線展開していきたい」と語っていた。
 ピーチの井上CEOは「安定株主となるANAHDとのシナジーにより、ピーチは事業の拡大と発展を一層加速できる」とANAをバックに事業拡大していくことを強調していた。
 ANAはエアアジア・ジャパン、バニラ・エアとLCCの経営を続けてきたが、現段階では順調に来ているとは言い難い。一方で、ピーチは2014年度以来黒字化を続け、既に累積赤字を一掃し、LCCとして日本でも最も成功したビジネスモデルとなった。
 「LCC事業をANAグループの中核事業の一つに成長させる」には、ピーチ主導によるLCC一本化と経営の継続が、最も可能性の高い方向性とみられる。ANAグループのLCC事業を井上CEOに任せ、自分たちはFSC事業などに専念する。それが、LCCを中核事業に成長させる道ではないか。(石原)