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2017.11.20

極東ロシアと北方領土

 出国税(観光促進税)の強引な導入経緯を見ると、「官邸主導、極まれリ」を実感するが、一部新聞からは「超官邸主導」の言葉も聞かれるようになった。こうした状況では、野党どころか、自民党も、極論を承知で言えば、国会も必要ないのではと思えてくる。
 「官邸主導」を象徴するものに、北方領土の官民調査団がある。正式には「北方四島における共同経済活動に関する官民調査団」で、既に6月と10月の2回実施された。
 安倍首相とプーチン大統領が合意した日露両国の共同経済活動の1分野として観光があり、日本旅行業協会(JATA)関係者、旅行会社代表なども北方調査団に参加した。
 領土問題が膠着している中で、様々な分野で日露両国が北方領土の開発で協力することは評価する。しかし、日本から北方領土へ観光に関しては早急すぎる。時期尚早と言わざるをえない。
 北方四島は日本固有の「国内領土」。したがって、北方四島を旅行する場合は「国内旅行」となる。ロシアが不法占拠する日本の領土を日本人が国内旅行する。日露経済協力を割り引いても、あまりにも矛盾が大きい。
 JATAの説明では、国後や択捉などの大自然トレッキングなどツアーの可能性などが指摘されているが、現状では安心・安全面でのリスクが極めて高い。国後、択捉の空港はILSが整備されておらず、有視界飛行の離着陸となる。したがって、天候不良の場合は欠航の可能性が高まる。
 また、墓参団が利用する船を使った日帰りツアーなどが現実的とされるが、宿泊施設の不足、島内道路の未整備、日本人ガイドがいないなど、観光するための条件が未達で、他の分野はともかく、現状で日本から北方領土への観光は難しいと判断せざるを得ない。
 アウトバウンド促進、日露経済協力の観点から言っても、旅行業界は推進すべきは極東ロシアの観光開発が先ではないか。JATAも先刻承知とは思うが、「日本から最も近いヨーロッパ」と言われるウラジオストクやハバロフスクなどの極東ロシアの観光開発を急ぐべきだ。既に、韓国ではウラジオストクの旅行が女性の間でブームになっているという。
 10月には地元側の招聘で、ウラジオストクへの旅行会社のファムツアーも実施されており、現地サイドの日本人旅行者誘致の期待も高まっている。ウラジオストクと同様にハバロフスク、さらにはカムチャッカ、サハリンなども日本市場の拡大に非常に熱心という。
 来年はロシアでサッカー・ワールドカップが開催される。6月14日の開幕と7月15日の決勝はモスクワ。開催地は11都市12会場。日本の試合はこれから決定されるが、開催都市はモスクワ2カ所、サンクトペテルブルグ、カザン、ソチ、ニジニ・ノヴゴロド、サマーラ、ヴォルゴグラード、サランスク、ロストフ・ナ・ドヌ、エカテリンブルク、飛び地のカリーニングラード。この中には、日本に馴染みの少ない都市も多い。
 日本代表の予選3試合が組まれた都市は、今後脚光を浴びる。目的はワールドカップ観戦にしても、これまで同様に開催都市はメディアで紹介され、ロシア観光への関心が高まる。とくに、日本から近い極東ロシア観光への呼び水になることが期待される。
 極東ロシア地域に強い旅行会社はパッケージツアーを造成しているが、デスティネーション開発では、これからの地域だ。まさに、JATAアウトバウンド促進協議会でも、地元と協力して需要喚起のためのモデル地域となる。
 極東ロシアと北方領土の観光開発。海外と国内、同じようで全く別のもの。同じ政治主導であっても、観光で官民が協力するのは極東ロシアだろう。
 北方領土の元島民、道東経済関係者など地元の北方領土への思いは分かるが、北方領土への観光振興はハードルがあまりに高すぎる。まずは極東ロシアへ日本人旅行者が拡大し、観光交流を促進することが北方領土への道を開くことになるのではないか。(石原)