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2017.12.04

若者の海外旅行費用を軽減せよ

 若者の海外旅行意欲は復活したのか。旅行業界は若者の海外旅行促進に熱心だが、一般的にはどうなのか。海外に行きたい人は行く、行きたくない人は行かない。確かに、若い時に海外に行って、人生観が変わる人もいるだろう。昔はそういう人が大勢いた。海外に行って、世界を知り、日本を知った。だから、若いうちに海外に行くべきと言う。
 海外に行かないよりは行ったほうがいいだろうが、もう声高に言う時代ではないのかもしれない。日本の海外旅行は「成熟期」にある。アジアは今が海外旅行の成長期、これから絶頂期を迎える。これは、日本も歩んだ道だ。
 若者は今も昔も変わらない、というわけではない。時代か変われば、大人も若者も変わる。LCCで誰でも海外に行ける。ソウル、上海、台北など、アジア近隣諸国は国内旅行と変わらない。若者に気軽に海外へ行く。SNSにアップすることを求めて出掛けていく。ことさら、若者の海外旅行促進と大上段に構える必要があるだろうか。
 以上のような意見もあるだろう。
 「明日の日本を支える観光ビジョン」に以下のように書かれている。「若者のアウトバウンド活性化◯若者の旅行費用を軽減するなど、アウトバウンドの活性化に向け、以下の取組を実施。・旅行業団体と連携し、若者割引等のサービスの開発・普及により、若年層の海外旅行を更に促進・関係官庁と旅行業団体による若者のアウトバウンド活性化に向けた議論を開始し、2016年度内をめどに結論を得る」
 そのために、有識者と関係省庁による「アウトバウンド活性化に関する検討会」を立ち上げ、JATAアウトバウンド促進協議会と協調して、若者のアウトバウンド活性化に向けた具体的に方策を検討するとした。
 2016年度はとうに過ぎた。2017年度も残り4カ月を残すのみ。
 国は観光立国の訪日インバウンド施策には当然のことながら熱心だが、アウトバウンドは置き去りで、国のアウトバウンドに対する本気度がよく分かる。
 これに関して、観光庁を攻める気は毛頭ない。観光施策がインバウンドであるのは当たり前で、アウトバウンドを「観光ビジョン」で触れていること自体が特段の配慮と思うからだ。日本の旅行業界のことを思ってのことだろうが、やらないことは書かないほうが良いのではないか。
 「ツーウェイツーリズム、双方向の観光交流、若者のアウトバウンド活性化」。とても耳障りの良い言葉だが、こうした美辞麗句も実態が伴わなくては意味をなさない。
 「若者の旅行費用を軽減する」? LCCで行く若者から出国税1000円を徴収したら、「若者の旅行費用を増大する」ことになるではないか。誰が読んでも、話が逆である。
 観光ビジョンに明記されているからには、出国税を負担する日本人の受益は、「若者のアウトバウンド活性化」が当然最有力候補となる。観光庁は予算編成で受益を決める方針を示している。予算が付く「若者のアウトバウンド活性化」には何があるのか。
 有識者による「観光財源のあり方検討会」のヒアリングで、旅行業界は「旅券取得費用の低減、日本人海外旅行者の安全確保等」をアウトバウンド振興策として求めた。
 これに対して、各委員からは「出入国の円滑化、たびレジの活用」に賛同、「パスポート取得費補助は需要喚起につながらない」という意見が出た。
 出国税に対して訪日外国人のみのESTA型の導入を求めた自民党議員は、「パスポート取得費用は、個人財産の形成につながるため困難」と指摘した。パスポート取得費用の軽減はハードルが高い。
 ようやく有識者によるアウトバウンド活性化の検討会が立ち上がろうとしている。しかし、観光財源検討会の委員の意見を聞いても、こうした有識者の検討会に過度な期待は持たないほうがいい。冒頭のような意見が出てくる可能性もある。旅行業界とは温度差が違うのだ。「若者の旅行費用を軽減する」で押すべきだ。(石原)