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2018.08.06

若者の「海外体験」拡大へ予算支援を

 観光庁の「若者のアウトバウンド活性化に関する検討会」は、最終とりまとめを公表した。『次代を担う若者への「海外体験のススメ」』と題された最終とりまとめは、「海外体験」に焦点を当て、海外体験を広げるための国民的ムーブメントの醸成とモチベーションの向上・阻害要因の緩和・環境整備に着手することを提言。観光庁と旅行業界を中心に、関係府省庁、経済界、教育界が一体となった横断的な組織を設置することを求めた。
 同時に、観光庁と旅行業界には「海外旅行」の再定義と旅行業サービスの変革を提言し、若者の海外体験の新たな商品造成のためのモデル事業の実施、海外体験に特化した旅行商品造成の強化を求めた。
 同検討会は、若者が海外旅行に行きやすいような旅行商品を造成し、スタディツアー、ボランティアツアーなど若者の「海外体験」を促進するようなツアーを求めている。
 海外旅行と言えば、旅行目的のパッケージツアーが主流だが、OTAの台頭により、以前のような大手旅行会社の定番パッケージツアーと中小旅行会社のSIT向けのパッケージツアーの垣根が取り払われ、大手旅行会社のSIT的な商品造成が進んでいる。
 例えば、エイチ・アイ・エス(HIS)は、近年の傾向として、スタディツアー、ボランティアツアー、バリアフリーツアーを強化、造成・販売を拡大している。今回の検討会の最終とりまとめを受けて、こうしたモデル事業に助成・支援の予算が付けば、大手旅行会社の「海外体験ツアー」の造成は加速度的に進むかもしれない。
 日本旅行業協会(JATA)では、3月末に観光庁へ提出した海外旅行政策の提言で、「若者のアウトバウンド活性化」に向けて、青少年を中心とした相互理解を促進するモデル交流事業の実施と、若者の国際化支援として「グローバル人材の育成」に対して予算計上を要望した。
 青少年の相互理解促進のモデル交流事業は、ロシア、中国、インドなどの観光協力MOU締結国や外交重点国を中心に、修学旅行を含む教育旅行、姉妹都市間交流事業のセミナー開催、モデル事業選定実施、学生交流プログラムの予算化を要望した。
 また、グローバル人材の育成に向けて、若者の海外旅行に臨む「はじめの一歩」の支援、観光学科の大学生、観光庁が認めた大学・専門学校を対象に観光人材育成の海外短期留学支援を予算要望した。
 今回の最終とりまとめに照らせば、若者の海外企業のCSR活動や海外ボランティアへの参加、ワーキングホリデーや海外留学の事前下見ツアーなど、若者の海外体験きっかけのための新たな商品造成のためのモデル事業の実施は、これらに該当するとみられる。既に、大手旅行会社も海外への若者向けのスタディツアー、ボランティアツアーを強化、拡大しており、若者向けの旅行商品の開発、拡大を一層促進するためのモデル事業として予算化が期待される。
 また、受け身的行動層、無関心層、海外未経験者などに対する「海外体験」の魅力の講演活動、セミナー、シンポジウムなどについては、JATAアウトバウンド促進協議会が各地の大学等と共同で取り組んでおり、これに対する支援なども検討される。
 さらに、2018年度に観光庁予算に計上された「旅行安全情報等に関する情報プラットフォーム」をさらに強化、拡充するために19年度以降の予算計上も必要になる。
 若者のアウトバウンド活性化に向けて、国民的ムーブメントを起こすことは重要だが、一過性に終わらず、旅行者、旅行事業者に実益となる継続的な具体的施策が必要だ。
 2019年1月からの国際観光旅客税(出国税)の徴収による日本人海外旅行者の受益を踏まえると、若者の「海外体験」拡大へ必要な予算措置を講じることが期待されるとともに、旅行業界は「海外体験ツアー」の商品造成を図るとともに、これを引き金に、海外旅行の「成熟市場」から「再成長市場」へのシフトチェンジを図りたい。(石原)