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2018.07.30

田端 新観光庁長官に期待する

 観光庁長官に田端浩国土交通審議官が7月31日付で就任する。国土交通審議官を経た後は、慣例からすると、事務次官就任または退任となるが、異例の観光庁長官への就任となった。
 旧建設省出身者が事務系、技術系と2年連続で事務次官に就任し、旧運輸省出身者の事務次官就任は来年に持ち越されたが、田端氏が国土交通審議官から観光庁長官に就任、菊地氏が港湾局長から初めて技監に就任するという旧運輸系に新たな道筋ができ、バランスを取った今回の幹部人事と言えるかもしれない。
 とくに、田端氏の観光庁長官就任は、予算も組織も強化、拡大してきた観光庁の重要性を物語るもので、国の成長戦略の波に乗り、将来の観光庁から「観光省」への布石とも思える。
 国土交通事務次官職は通常任期1年だが、観光庁長官は少なくとも2年、2020年7月下旬からの東京オリンピック・パラリンピックの開催を考えると、観光ビジョンの目標である2020年の訪日外国人旅行者4000万人、旅行消費額8兆円達成に向けて、3年は続けてほしい役職である。
 これからの3年間は、2020年の訪日の目標達成や東京オリンピック・パラリンピックの成功とともに、2030年の訪日外国人旅行者6000万人、旅行消費額15兆円の次なる目標達成の鍵を握る重大な局面を迎える。「観光先進国」になるための試練や岐路に立つことになるかもしれない。
 観光庁初代長官の本保芳明氏、溝畑宏氏、井手憲文氏、久保成人氏、田村明比古氏が観光庁長官を歴任してきた。6代目となる田端氏が担当する2018年から2020年は、日本の観光政策、観光産業の真価を問われることになり、その責務は重い。
 これまでのインバウンドは、ビザ緩和などの施策とアジアの成長の追い風に乗ってマーケットが伸びてきたが、これからの施策こそが重要になる。
 その意味では、国土交通省内きっての観光政策通である田端氏の観光庁長官起用は最適任ではないか。2008年10月の発足から観光庁は今年で10周年を迎える。観光庁は田端氏を長官に迎えて、次の10年に向けた新たなスタートを切る。
 田端氏は2002年4月から2年3カ月間にわたり、観光部旅行振興課長を務めた。「当時は、9.11の半年後で、日米観光協力のMOU調印式を総理官邸で行うぐらい、危機感のあった厳しいスタートだった」と当時を振り返る。翌年の2003年にはSARSが発生し、海外旅行需要が激減した。
 田端氏は国土交通省・観光庁の中で最もアウトバウンドを知る人である。その当時を振り返り、「状況が悪い時でも、産業界と行政が一緒になって需要回復に取り組んできた」ことが、当時の苦境を乗り切った。旅行業界側も行政とともに、海外旅行需要回復に向けて、ニューヨークへ大規模なミッションを送り込んだり、文字通り、官民一体で観光を推進した。
 観光ビジョンを推進する上で、「双方向交流」が謳われているが、その実質は伴わず、インとアウトの格差は広がるばかりだ。加えて、来年1月から始まる国際観光旅客税の日本人からの徴収で、日本人への受益が問われている。
 インバウンドについては高次元な観光施策が実行され、旅行環境がこれからも整備される。それを日本人も享受できるというが、日本人出国者から徴収する税は、やはりアウトバウンド施策に振り向けるべきだ。
 欧米では、日本のアウトバウンドを「成熟市場」と見なしているが、出国率、パスポート取得率を見ても、先進国のみならず、アジア諸国の後塵を拝しており、「再成長市場」のポテンシャルはあると見ている。
 田端新長官には、インバウンドの目標達成とともに、アウトバウンドを促進し、「観光不均衡」を正して、バランスの取れた「双方向交流」を実現する観光施策を期待したい。(石原)