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2018.06.11

再び、成長市場へ

 日本のアウトバウンドが「成熟市場」と言われて久しい。毎回、海外へ行くたびに関係者からその言葉を聞かされるわけだが、とにかく数字が上がらなければ、これについて反論は難しい。
 成熟市場というのは、早くから海外旅行市場が形成されて成長し、それが成熟したという意味合いだが、相対的には、一方に「新興市場」・「成長市場」があり、それと比べて、よく言えば「成熟市場」、裏を返せば「停滞市場」という意味合いもなくはない。
 日本のアウトバウンド市場が20年以上経っても、1600〜1800万人台を行き来している状況では、成熟・停滞と言われても仕方がない。その一方で、アジア経済の発展で、中国・韓国の北東アジア、東南アジア、インドの各アウトバウンド市場は急成長しており、短期的な浮き沈みはあっても、中長期的に新興・成長していることは疑いようがなく、そこにプロモーション、マーケティング予算を投下することは分からなくはない。
 日本のインバウンド市場を見れば、それは明らか。日本の本格的な観光政策の始まりは、2000年代になってからで、新興も成熟もなく、欧米を含む全ての国々は新興・成長市場のようなものだ。中国・韓国・台湾・香港の4市場は突出しているが、ほぼ各国・地域からの訪日インバウンドは成長を続けている。ここが欧米と違うところだ。
 しかし、欧米とアジアでは、日本のアウトバウンド市場に対する見方は異なる。前述の日本のアウトバウンドを成熟市場と見るのは欧米の見解だ。
 米商務省は日本からの海外旅行者数の伸び率を、2020年以降も年平均1%増と見ている。これは、ほぼ横ばいだが、希望的に1%と見ているに過ぎない。一方で、中国、インド、韓国は二桁台の伸び率で、政治・経済面から短期的なマイナスはあっても確実に成長すると見通している。
 米国は、日本だけでなく、英国をはじめとする欧州市場も日本と同様に「成熟市場」とみており、「新興」と「成熟」をはっきりと区別している。7月にブランドUSAは日本・韓国にセールスミッションを送り込むが、参加する米国の観光局の中には、「韓国の市場に狙いを定めている」とはっきり口にするところもある。
 日本市場もすっかり舐められたものだが、アジアでは見方が違う。政治問題で日本から韓国の団体旅行は今も大きな影響を受けている。政治問題は予断を許さないが、一時と比べれば良い方向に向かっており、それに伴って、教育旅行はまだまだだが、法人・団体旅行は上向いてきた。
 韓国や台湾の観光関係者は、韓国や台湾の海外旅行者が増加しているといっても、潜在市場は日本の比ではないと必ず強調する。いま韓国、台湾から多くの旅行者が訪日し、その数は日本から韓国、台湾への旅行者を遥かに凌いでいる。
 彼らが異口同音に言うのは、日本からの訪韓、訪台旅行者数は、韓国、台湾からの訪日旅行者数の倍以上のポテンシャルがあるということだ。彼らは日本を「成長市場」と見ている。
 減少傾向にあるとはいえ、日本の人口1億2650万人、それに比べて海外旅行者数1790万人と人口の15%にも満たない。島国とか言語とかの話ではない。いくら何でも少なすぎる。どこが成熟市場という話である。
 日本がアジアでいち早く経済成長したことで、海外旅行ブームが到来したが、これは過去のこと。今はもうアジアの国々が追いつき、拮抗している状況だ。これからはアジアと一緒に成長していかなければならない。
 海外旅行も同様で、1億人以上の人口を抱えるアジアの国として、せめて韓国、台湾の倍以上の海外旅行者を世界に送り出すことが、日本の観光政策でもある「双方向交流」の目標としたい。海外旅行者数が2000万人になれば、欧米も日本のアウトバウンドを「成長市場」と見てくれるだろう。(石原)